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さいはての大地を進むローカル列車の旅 2

咲来、紋穂内、比布……珍駅名も楽しい北海道

快速なよろ

 快速「なよろ」は、北海道のローカル列車ではお馴染のキハ40系ディーゼルカー。快速だから2両くらいはつないでいるのかなと思ったら単行(1両のみ)だった。名寄まで乗ってきたキハ54とは異なり、普通の4人向かい合わせのボックス席。すでに半分くらい席が埋まっていて、好きな場所を選べる状況ではなかったけれど、2つほど空いていたボックス席のひとつを確保。ラッキーなことに進行方向窓側を選ぶことができた。

キマロキ編成

 稚内行きの特急列車が発車すると同時に、旭川行き快速「なよろ」は出発。冷房のない車両なので、窓を開けると心地よい風が入って来る。
 発車してすぐに進行方向左に注目すると、少し離れたところに黒々とした編成の列車が停まっている。現役ではなくて保存された車両で、蒸気機関車2両の間にマックレー車、ロータリー車という2種類の除雪車をはさんだ面白い編成だ。車両の頭文字を取ってキマロキ編成という。後部にはおまけで車掌車がつながっている。宗谷本線から分岐していたが、30年以上前に廃止となった名寄本線の線路上に鎮座している。北国博物館の敷地内で、列車は野外展示品なのだ。
 名寄の次の東風連駅を通過したので、一瞬、あれっと思ったのも無理はない。これまで律儀に各駅に停まっていたので、駅が見えると減速して停車するのが当然だったのだが、今乗っているのは快速列車なのだ。風連に停まると、3つの駅を通過。名もない小さな駅の様子を観察できないのはちょっと淋しい。
 楽しげな羊のイラスト入り看板が立っている士別に停車。羊のまちだそうだ。駅からクルマで10分程のところには「羊と雲の丘」があり、珍しい種類の羊を見ることもできる。

鉄道防雪林にある記念碑、緑林護鉄路

 士別と剣淵の間には、線路に沿って林が続いている。これは厳しい吹雪から線路を守るための鉄道防雪林だ。このあたりは過湿泥炭地のため植林には適さず、試行錯誤の末、ドイツトウヒを植栽して成功した。立役者である林業技手深川冬至の名を取って深川林地と呼ばれ、選奨土木遺産となっている。
 特急停車駅でもある和寒を出ると、列車は勾配に挑む。宗谷本線では有数の難所塩狩峠だ。列車はエンジンを唸らせながら力強く上って行く。塩狩駅の近くには慰霊碑が立っている。20世紀初頭に起きた列車暴走事故を、自らの体を張って防いだ鉄道員を称えるもので、この話は三浦綾子が小説「塩狩峠」として発表している。

面白い駅名「ぴっぷ」

 塩狩駅を通過し、山越えが終わると比布に停車。「ぴっぷ」とは珍しい駅名だ。40年ほど前に、ピップエレキバンという肩こりや腰痛を和らげる医療器具のCM撮影が行われて一躍有名になった駅だが、今でも覚えている人はどれくらいいるのだろうか?駅舎は近年建て替えられたやや大きな建物である。
 列車は川を渡る。石狩川と知って驚く。もっと別の地域を流れていると思っていたからだ。下りの普通列車とすれ違う永山を出ると、まわりには貨物駅や車両基地が広がる。札幌と旭川を結ぶ電車特急の姿も見える。この電車を旭川駅まで回送するために、ここからは何と電化区間となっている。しかし、宗谷本線の列車はすべてディーゼルカーなので、架線は宗谷本線にとっては無縁の施設だ。

宗谷本線らしからぬ複線電化の高架駅旭川四条

 最後は、複線電化の高架線を走り、旭川駅に到着。しばらく来ないうちに近代的な高架駅に生まれ変わっていた。稚内から各駅停車と快速列車を乗り継いでの旅は、所要時間5時間30分。気の遠くなるような数字だが、見ごたえのある車窓が連続し、決して飽きることがなく、実時間よりもはるかに短く感じられた。やはり、北海道の列車の旅は魅力的だ。それも普通列車に乗るほうが、特急列車で通り過ぎるよりも何倍も充実した旅となると思った。

野田 隆

のだ たかし

1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/nodatch/

 

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