吹奏楽部員たちの“人生の教訓”となるコトバ
―「丸ちゃん」が教えてくれた「謙虚たれ」
吹奏楽に燃えた高校生たちの物語
「自分の意見をどんどん言いなさい」という丸谷先生の方針で、吹奏楽部の練習中、部員は先生に対しても、仲間に対しても、積極的に自分の思いを口にする。そんな活発な雰囲気の中で、丸谷先生は時折「謙虚たれ」と説く。
「自分はうまいと思って謙虚さをなくすと、うまくいかなくなるもんや」
スガは「本当にそのとおりや」と思うことがあった。
ホルンがだいぶ上達してきたと思ったころ、少し調子に乗って個人練習で手抜きをしたことがあった。そして合奏に入ると、思うように吹けなかったり、目立つ部分で音をはずしたりした。
今後はずっと「謙虚たれ」を胸に刻みつけて頑張っていこうとスガは思った。
スガはコンクールよりもマーチングが好きで、2017年はマーチングメンバーとして全日本マーチングコンテスト全国大会に出場した。
大阪城ホールという巨大な会場に圧倒され、強いプレッシャーを感じた。しかし、「謙虚たれ」を心がけ、「大変じゃない練習は、練習じゃない」と積み重ねてきたものが大一番で力になった。思い描いていたとおりの演奏演技ができたのだ。中学校時代に強いインパクトを受けた《「リンカンシャーの花束」より》を、全国大会の舞台で自分自身が奏で、行進した。
結果も金賞という最高の栄誉に輝いた。
夏の甲子園の開会式では、大阪府と兵庫県の高校生が1年おきに演奏を担当しているが、100回大会を迎える2018年はオール関西2府4県の約200人の選抜バンドが大会行進曲や大会歌を演奏することになっている。
大阪府のメンバーはオーディションで決まる。スガは昨年はオーディションに落ち、救護を担当するサポートとして開会式に臨んだ。もともと高校野球が好きだったこともあり、甲子園の雰囲気に高揚感を覚えた。
スガは「今年もお手伝いでええかな?」とも思ったが、「せっかくの100回大会やからオーディション受けてみよ!」と思い直した。
オーディションを前に、丸谷先生が部員たちにこんなことを言った。
「甲子園で演奏する元気な曲やけど、楽譜どおりにかっちり吹くんやで」
大音量で荒っぽく吹いたり、テクニックを見せびらかすように吹いたりしてはいけない、と先生は言っているのだとスガは感じた。つまり「謙虚たれ」だ。
スガは教えを守ってオーディションで「かっちり」とホルンを奏でた。そして、念願の選抜メンバーの座をつかむことができたのだ。
今、スガはワクワクしながら8月5日のそのときを待っている。
太陽がきらめく中、自分のホルンの音が、特別な夏の始まりを告げる。高校生活最後の夏、球児たちの姿と自分自身の青春が、重なり合う。
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著者:オザワ部長
現在、実際に演奏活動を行っている人だけでも国内に100万人以上。国民の10人に1人が経験者だと言われているのが吹奏楽です。国内のどの街を訪れても必ず学校で吹奏楽部が活動しており、吹奏楽団が存在しているのは、世界的に見ても日本くらいのものではないでしょうか。
そんな「吹奏楽大国」の日本でもっとも注目を集めているのは、高校の吹奏楽部です。
「吹奏楽の甲子園」と呼ばれる全日本吹奏楽コンクール全国大会を目指す青春のサウンドには、多くの人が魅了され、感動の涙を流します。高校吹奏楽は、吹奏楽界の華と言ってもいいでしょう。
もちろん、プロをもうならせるような演奏を作り上げるためには日々の厳しい練習(楽しいこともたくさんありますが)をこなす必要があります。大人数ゆえに、人間関係の難しさもあります。そして、いよいよ心が折れそうになったとき、彼らを救ってくれる「コトバ」があります。
《謙虚の心 感謝の心 自信を持って生きなさい。》
《コツコツはカツコツだ》
《すべては「人」のために!》
それらのコトバは、尊敬する顧問が語ってくれたことだったり、両親や友人からの励ましだったり、部員みんなで決めたスローガンだったりします。
本書では、高校吹奏楽の頂点を目指して毎日ひたむきに努力しながら、彼らが胸に秘めている「コトバ」の数々を切り口にし、その青春の物語を引き出しました。すると、通常の取材とは少し違った物語「アナザーストーリー」が浮かび上がってきました。
ぜひ中高生から大人までが共感できる、純粋でまぶしい「コトバ」と「ストーリー」をお読みください。