柏木陽介の未来日記⑯ エジルになる!
トップ下にパサータイプが消えつつある
ブラジル・ワールドカップもいよいよベスト4が出揃った。大会前、僕が優勝候補に挙げたドイツも順調に勝ち進んでいる。フランス戦前にインフルエンザにかかっているという悪いニュースが流れていたけれど、なんとか勝ちきったね。決勝トーナメントに入ると、本当にどの試合も厳しい戦いになっている。どちらに転んでもおかしくない試合展開ばかりが続いているから、観ているほうもすごく楽しい。
そうした優勝争いの行方も気になるところだけど、今大会で僕が最も気になっているのは“トップ下のトレンド”の変化について。毎回、ワールドカップでは新しいトレンドというものが生まれている。チーム全体に目を向ければ、3バックを採用しているチームが多くて、しかもそのチームがかなりの確率で決勝トーナメントに勝ち進んでいる。守備を固めてカウンターという戦術が効果的でハマリやすいのだろう。そうした影響があるのかもしれないけれど、トップ下にパサーを置かないサッカーが主流になっているのだ。
トップ下を置いているチームを見ても、アタッカー系の選手を起用している傾向にある。トップ下のポジションにいわゆる“パサータイプ”のプレーヤーが消えつつあるということだ。自分自身がパサータイプだから、トップ下でプレーしている選手にとくに注目してしまうのだけど、この現代サッカーの潮流は個人的にはポジティブに捉えられない。
パサーの居場所はボランチへ移った!?
こうして世界のトップ下のトレンドを調べていくと、自分がどういう選手を目指したらいいのかという課題が出てくる。そこで改めて僕のスタイルを自己分析してみると……基本的にパスを主体としたプレーで攻撃にアクセントをつけることだと思っている。
いまからアタッカー型のトップ下を目指すという選択肢はない。もちろんゴールの数を競うのがサッカーの基本だから、簡単にボールをはたいてもスペースがあれば一発を狙うこともある。自らゴールを決める確率のほうが高ければシュートを打つことを選ぶけれど、ただひたすらにシュートばかり狙うというのは僕のスタイルに反するし、元々そういう哲学は持っていない。だから、いまのトップ下に興味を持てないというのも正直なところだ。
パサータイプの居場所は果たしてどこにあるのだろう――。そうした視点でワールドカップを見ていると、新たなヒントというのも見えてくる。
そのひとつがボランチというポジションだ。浦和レッズでも僕はチーム事情に応じてボランチとトップ下のふたつのポジションでプレーしているけれど、パサー系の選手で活躍しているポジションはボランチが多い。その代表格はスペインのシャビやイタリアのピルロ、前回のコラムでも触れたクロアチアのモドリッチやラキティッチなど。僕の尊敬しているヤット(遠藤保仁)さんもこのポジションが定位置だ。日の丸を意識するなら、ボランチのポジションになるかもしれない。
恩師からの助言――エジルになれ!
ボランチこそ生きる道――。頭のなかではこうしたヒントを見つけ出しているけれど、どうしてもトップ下を捨てきれない自分がいる。僕が尊敬してやまないある恩師からの助言がずっと頭から離れないのだ。
その恩師とは、元日本代表監督のイビチャ・オシムさんだ。
いまから4年前。浦和レッズがオーストリアキャンプを張っていたときのこと。ある日、(鈴木)啓太さんがなにかの用事でオシムさんと国際電話で話していたとき、啓太さんがポンポンと僕の肩を叩いてきたのだ。
「どうしました?」
「オシムさんが話したいんだって。『カシワギいるか? いたら変わってくれないか』と言っているよ」
「はい。分かりました」
なんの用事だろう。啓太さんとお互いに首をかしげながら、おそるおそる受話器を手に取った。浦和レッズに移籍したことをご報告したりと、軽く挨拶を交わしたあと、強い口調でこう僕に言ってきた。
「お前はこれからエジルになれ!」
当時オシムさんからもらったアドバイスがいまだに僕の心に突き刺さっているのだ。オシムさんには代表メンバーに呼んでもらったときも嬉しかったけれど、日本を離れて母国へ戻ったあとも、こうして僕のことを気にかけてくれたことがなにより嬉しかった。
たしかにエジルとは左利きという点も、パサーという点も似ているからだろうか。オシムさんに対して「エジルを目指しなさいと言っても、僕より年下なんですが…」とは口が裂けても言えなかったが、それ以降、僕は“メスト・エジル”というドイツ人選手をとくに注目するようになった。今大会で僕がドイツを優勝候補に挙げたのも、こうしてエジルに活躍してほしいという想いが影響しているかもしれない。
ブラジル・ワールドカップも残すところあと1週間あまり。そして7月19日からはJリーグもいよいよ再開する。ピッチ内外で集中して戦闘モードへとモチベーションを上げていきたいね。また2週間後!
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