時代や社会が見えてくる世界のミイラ文化
地域文化の中で死生観や人生観を形成してきた
ミイラの定義はそもそもどんな状態を言うのか
ではそもそもミイラとは何か。
ミイラの定義のひとつに、1958年に刊行された上野正吉著『新法医学』がある。
それによると「死体の乾燥が腐敗による分解速度より早く、かつ高度に進むと、死体の乾物ができあがる。これがミイラであり、体水分が60%以下になると細菌類の繁殖が阻止され、さらに50%以下になれば完全に止まる」とある。
つまり極端な乾燥気候の環境では、条件さえそろえば人間の死体は自然にミイラとなる。現実に中南米やエジプト、中国内陸部などの乾燥砂漠地帯では、死体がそのままミイラとなった例はいくつもある。
また砂漠地帯とは違うが、ヨーロッパや世界の泥炭湿地帯でも、偶然によりミイラができる条件がそろう場所がある。
これらは強酸性の水や低温、酸素の欠乏といった諸条件のおかげで、皮膚や内臓が保存されているのだ。ただし泥炭に含まれる酸が、リン酸カルシウムを溶かすため、骨の保存状態はあまりよくないものが多い。
そしてまた日本のように、仏教者が即身仏として、そのまま地中に入りミイラ化する例もある。
偶然によりできたものや、「屍し蝋ろう」と呼ばれ、水中または湿潤の土中で、死体の脂肪が化学変化を起こし、腐りにくくなったことで残っている死体なども含めてミイラとしている。
いずれにせよ人類は、このような遺体やミイラを目撃しながら、それぞれの地域文化の中で死生観や人生観を形成してきたということなのだろう。
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教養としてのミイラ図鑑 ―世界一奇妙な「永遠の命」
著者:ミイラ学プロジェクト
「死」を「永遠の命」として形にしたミイラ。いま、エジプトはもちろん世界各地で、数多くのミイラが発見されており、かつミイラの研究も進んでいる。実は知っているようで知らないミイラの最新の研究結果とこれまでにないインパクトのあるビジュアルで見せたのが本書。高齢化社会の日本ではいま、「死」は誰にとっても身近にして考えざるを得ないこと。「死」を永遠の命の形として表したミイラは私たちに何を語りかけてくるのか? 人気の仏教学者の佐々木閑氏、博物館学者の宮瀧交二氏、文化人類学に精通する著述家田中真知氏の監修と解説とコラムで展開する唯一無二の「中学生から大人まで」楽しめるミイラ学本。