味わった「悲劇」を糧に全国の頂点へ
―精華女子吹奏楽部の「真価」を見せるとき―
自分の心に刻んだ「コトバ」と仲間たちを信じて
すべての楽器が激しく駆け巡る、息もつかせぬ展開で《ブリュッセル・レクエイム》はエンディングを迎えた。その瞬間、会場中から拍手と「ブラボー!」の声が巻き起こった。
結果はどうなるかわからない。ただ、自分たちが求めてきた「真価」を極めることはできた-55人のメンバーはそう確信していた。
九州大会は前後半に分かれて行われ、金・銀・銅の各賞の発表は別々に行われる。そして、後半の表彰式の最後に九州代表3校が発表されることになっていた。
前半で金賞を受賞した精華は、九州代表候補として後半の最後まで会場に残っていた。ライバルの活水も金賞、後半では前年の代表校である福岡工業大学附属城東高校(福岡)や玉名女子高校(熊本)も金賞を受賞した。
後半の表彰式の間、前半の金賞校の代表者1名は舞台袖で待機する。もしも代表に選ばれたらステージへ出ていく、という段取りだ。選ばれない場合は、そのまま舞台袖の暗がりから出ることなく帰ることになる。
精華の代表者はモモコだった。「今までで一番いい演奏だった」という実感はあったが、代表になれるかどうかはわからなかった。すぐ隣の席には活水の代表者がいた。
「心臓ってこんなに速く鳴るもんなん!? 」
モモコは緊張のあまり倒れてしまいそうだった。発表までの時間が異様に長く感じられた。
もし、代表校として最初に活水が呼ばれたら、そのときはもう精華が代表になることはないだろうという予感があった。呼ばれるなら、最初だ。
「それでは、プログラム順に発表します―」
運命のアナウンスが響いた。客席も、舞台上も、舞台袖も、すべてが静まり返る。モモコには、自分の心臓の音だけがティンパニの連打のように聞こえた。
「プログラム―5番、精華女子高等学校!」
会場が悲鳴と歓声に包まれる。モモコは頭が真っ白になりながらステージへ出ていった。代表校に贈られる賞状とカップを受け取りながら、気づくと涙があふれ出ていた。客席ではミユやミサト、精華の仲間たちの笑顔が弾けている。みんな、喜びと同時に、自分の泣き顔を見て笑っているようだった。
「こっちはひとりで怖い思いしとったのに、なんでみんな笑っとると!?」
モモコはそう思いながらも、涙を止めることができなかった。
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著者:オザワ部長
現在、実際に演奏活動を行っている人だけでも国内に100万人以上。国民の10人に1人が経験者だと言われているのが吹奏楽です。国内のどの街を訪れても必ず学校で吹奏楽部が活動しており、吹奏楽団が存在しているのは、世界的に見ても日本くらいのものではないでしょうか。
そんな「吹奏楽大国」の日本でもっとも注目を集めているのは、高校の吹奏楽部です。
「吹奏楽の甲子園」と呼ばれる全日本吹奏楽コンクール全国大会を目指す青春のサウンドには、多くの人が魅了され、感動の涙を流します。高校吹奏楽は、吹奏楽界の華と言ってもいいでしょう。
もちろん、プロをもうならせるような演奏を作り上げるためには日々の厳しい練習(楽しいこともたくさんありますが)をこなす必要があります。大人数ゆえに、人間関係の難しさもあります。そして、いよいよ心が折れそうになったとき、彼らを救ってくれる「コトバ」があります。
《謙虚の心 感謝の心 自信を持って生きなさい。》
《コツコツはカツコツだ》
《すべては「人」のために!》
それらのコトバは、尊敬する顧問が語ってくれたことだったり、両親や友人からの励ましだったり、部員みんなで決めたスローガンだったりします。
本書では、高校吹奏楽の頂点を目指して毎日ひたむきに努力しながら、彼らが胸に秘めている「コトバ」の数々を切り口にし、その青春の物語を引き出しました。すると、通常の取材とは少し違った物語「アナザーストーリー」が浮かび上がってきました。
ぜひ中高生から大人までが共感できる、純粋でまぶしい「コトバ」と「ストーリー」をお読みください。