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ベレッタM1934 ~「インド独立の父」の命を奪ったイタリア製の傑作軍用拳銃~

戦場の兵士が頼った腰に下げた「最後の切り札」【第二次大戦軍用拳銃列伝④】

■ベレッタM1934~「インド独立の父」の命を奪ったイタリア製の傑作軍用拳銃~

スライドの上面が大きくえぐり取られているデザインは、一時期、ピエトロ・ベレッタ社製拳銃の特徴だった。この「えぐり取り加工」のおかげで、排莢不良が生じることはほとんどなかった反面、強力な弾薬を用いる後年の別モデルでは、スライドの強度不足の要因とされたこともあった。

 イタリア屈指の老舗銃器メーカーとして知られるピエトロ・ベレッタ社は、創業当初は散弾銃を中心とした民間用銃器を主に生産していた。しかし第一次世界大戦の勃発で、軍から自動装填式拳銃(オートマチック拳銃)の開発を要請された同社は、オートマチック拳銃の設計経験がほとんどない中で、苦心してベレッタM1915を開発。初めてゆえの丁寧な設計姿勢が奏功し、当時としては優れたオートマチック拳銃に仕上がったため、これが軍に制式採用された。

 以降、ベレッタM1915はその派生型とともに、イタリア軍のいくつかの制式拳銃のひとつとして用いられたが、旧式化にともなって新型拳銃への更新が図られた。そこで再びベレッタ社に開発が依頼され、その新型の拳銃は陸軍が1934年に制式化したため、ベレッタM1934の制式番号が付与された。

 ベレッタM1934が使用する弾薬は、架空の人物ながら「ルパン三世」に登場する峰不二子の愛銃として知られるブローニングM1910と同じ.380ACP弾だが、空軍と海軍は、ベレッタM1934と全く同じ外見と構造を備えながらも.32ACP弾を使用するモデルを、ベレッタM1935として陸軍の翌年に制式採用している。

 ベレッタM1934とM1935は外観がほぼ同じなので弾薬の誤使用が懸念されるが、薬室とマガジンのサイズが異なっているため、そのような事故が起こる恐れはなかった。しかし.380ACP弾にしろ.32ACP弾にしろ、ドイツの9mmパラベラム弾やアメリカの.45ACP弾と比べると軍用としては威力がやや弱く、法執行機関向けともいえる弾薬だった。

 だが威力の面はともかく、ベレッタM1934とM1935はシングルアクションでストレート・ブローバックという単純な構造ゆえに堅牢で故障が少なく、ユーザーには好評だった。特に北アフリカ戦域では、トグル・アクションのメカニズムが砂漠の砂塵の影響を受けやすく、随時掃除を必要としたルガーP08を嫌った目利きのドイツ軍将兵が、味方のイタリア軍が装備する本銃を求めただけでなく、連合軍将兵も、護身用や戦場の土産として本銃を探し求めたという。

 戦後も、最初は戦中に造られた部品を組み立て、さらにベレッタ社の工場を再稼働させてM1934とM1935の生産は継続され、終戦直後にはイタリアの軍や法執行機関などの公用拳銃として用いられた。そして戦禍からの復興期になると、貴重な外貨を獲得するための「輸出品」としてM934とM935、パンサーまたはクーガーの愛称で、世界の銃器市場に向けて出荷された。なお、最近の同社の製品であるM8000シリーズにも、同じクーガーの愛称が付けられている。

 ベレッタM1934は使い勝手のよい銃だけに、凶行の道具とされたこともある。「インド独立の父」として知られるマハトマ・ガンディーが1948年1月30日に暗殺された際、犯人のナトラム・ヴィナヤック・ゴドセは、北アフリカでイギリス軍に鹵獲されたあと流転の身となった本銃を入手し、この偉人の胸部に3発の.380ACP弾を撃ち込んで命を奪ったのだった。

【データ】
製造国:イタリア
製造開始年:1934年
全長:15cm
銃身長:85mm
重量:700g
装弾数:7発
使用弾種:.380ACP弾
ライフリング:4条/右回り

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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