「方向づけ」が社長の最大の仕事
人気経営コンサルタント・小宮一慶が教える「社長になれる人、なれない人」(2)
経営に求められるのは「経済学」と「心理学」
しかし、「企業の方向づけ」は、やみくもに決めてしまえばいいというわけではありません。そのためには、「ビジョン・理念」「外部環境分析」「内部環境分析(自社の強みを知ること)」の3つの要素が必要になってきます。
まず外部環境分析ですが、世の中がどう動いているのかということが分からなければ、戦略の立てようもありません。また当然ながら、企業や業界ごとに外部環境も異なってきます。特に最近は、市場の移り変わりが激しい。ITの発展によって流通業における中間業者が排除されるなど、業界自体がなくなってしまうようなことも起きています。そうした状況を的確に判断できるのか。
また、激変する外部環境の中で、自社の強みは何なのかを把握することも必要になってきます。人材、資金力、営業力、研究開発力、アイデア、デザインなど、企業によって強みはそれぞれでしょう。しかし、強みを知ることだけでは不十分です。自社の強みを商品やサービスにまで落とし込まないと、お客さまには買ってもらえません。
さらに、商品やサービスにまで落とし込んだ上で、なおかつ売上げと利益を出すところまで経営者として責任を持てるのかどうか。経営の神様と称されるピーター・ドラッカーが言うように、企業の存在目的や行動規範である「ビジョン・理念」が最も大切です。これに基づかない戦略は、単なるカネ儲けの手段で、長期的にはお客さまも従業員もついてはきません。
経営で難しいのは実践です。どれだけ状況を分析できても、実践で結果を出さない限り、誰にも評価してもらえないのが企業経営者なのです。現状の把握や分析だけだったら、学者でもできます。経営学を学ぶことは必要ですが、それだけではダメ。学問というのは、過去の事例を分析するだけなので、個別の事例が全てに当てはまるわけではないし、何よりも経営というのはこれから先の未来へ向けて働きかけるもの。過去や現状を分析した上でこの先、世の中がどう変わって、何が売れていくのか、という実践的な商売勘のようなものも大事です。
また、人を動かすためには、お客さまだけでなく、働く人の気持ちを察することもできなければなりません。その意味で、経営に必要なのは経済学と心理学なのです。
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