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「将棋を指してもらい、哲学談義をしたい」との依頼の青年がやって来た【中田考のレンタルおじさん】

中田考「レンタルおじさん、始めました」連載第3回


いろいろな方が中田先生のところに訪れます。みんな自分の失敗談や悩みを深刻に、時には、おもしろ可笑しくお話しすると、中田先生も笑いがこらえきれず「いやー、みんなちがって、みんなダメだからねー。ワハハハハ」と呵々大笑。子どもから大人まで、みんなに読んでもらって、生きるのがラクになってほしい。そんな思いで書かれた中田考先生の名著『みんなちがって、みんなダメ:身の程を知る劇薬人生論』(KKベストセラーズ)がおかげさまで大ロングセラー。夏休みの学生さんの必読課題図書になぜ選ばれないのか不思議なくらいなんですが……。それはそうと、イスラム法学者・中田考先生が、「レンタルおじさん」を始めました。好評連載の第3回は「自分の友人Sくんと将棋を指してもらって、その後、人生相談にのってほしい」との要望をしてきた青年Fさん。さて、どんな話が展開されたのでしょうか?


 

■Fさんの友人Sさんを相手に将棋で勝負するレンタルおじさん・中田先生

 

 普段はネットでしか指しておらず、リアルな将棋を指してみたいというSさんを相手に私も久しぶりにリアルで指します。私は指しなれた石田流。Sさんはエルモ囲いで対抗し金銀で飛車をいじめる方針で対抗。正しい方針で、最善手を指し続ければ必ず居飛車が勝ちます。

 しかし棋歴50年、将棋ウォーズで通算7千局以上指している石田使いの私は泥仕合に持ち込む方法を知っています。私が飛車を回って銀を繰り出して相手の玉頭を攻めます。居飛車側は構わずに強気に攻めれば勝ちでしたが、経験不足のSさんは優勢に「震えて」受けに回ったため、ソッポの金が遊んで出遅れた居飛車に反撃の余地を与えず、石田流らしく飛角銀桂の連携で一挙に攻め潰して、レンタルおじさんは指導対局の面目を守りました。

 Sさんとののチェスクロックは使わず時間制限なしで指しましたが1時間弱で指し終えたので、手短に感想戦を済ませた後、後半1時間は働きながら哲学を勉強しているけれど哲学にも納得しきれない、というFさんとの人生相談で、哲学談義に花を咲かせました。

 

 

■アラビア語って難しいですか?

 

Fさん:哲学を勉強していてドイツ語、フランス語、英語で原著を読んだりサンスクリット語も今勉強しています。アラビア語ってどうなんですか

 

中田:アラビア語は簡単ですよ。例えばヘブライ語だと古典ヘブライ語(聖書ヘブライ語)文法と現代ヘブライ語文法は完全に別物として教えるんですが、アラビア語にはそういう区別がありません。日本語でも古語の文法を習わないと、古文は読めませんし、語彙も全然違います。ところがアラビア語では、1400年経っても語彙も大きく変わっていません。私も普段はクルアーンや千年ほど前に書かれた古典イスラーム文献を、現代アラビア語辞典(The Hans Wehr Dictionary of Modern Written Arabic)で読んでいますからね。それくらい古典と現代語って差がないんですよ。だからアラビア語は簡単なんですよ(笑)

 

Fさん:アラビア語って成立したのが8世紀くらいでギリシャ語とかより遅いから比較的簡単かなと思ったんですが。

 

中田:いえ、8世紀は学問としての古典アラビア語の正書法をアブー・アスワド・ドゥアリー(689年没)が確立し、イブン・アビー・イスハーク(735年没)らが古典文法学の基礎を置いた時期ですね。

 実はアラビア語自体は原セム語の形態を一番残していると言われているくらい古い言語なんですよ。ヘブライ語では消滅してしまった活用などもあまり消えていません。それでもそんなに難しくはありません。古典語の印欧語のギリシャ語やサンスクリット語の方が遥かに難しいしです。現代語でも学部学生の頃に覚えさせられたドイツ語のgehen-ging-gegangenのような不規則活用の方がよほど数も多く複雑です。 それどこから、文法が日本語に近く、漢語経由で共通語彙が多く文法も日本語に近い韓国語の方がずと難しいと思うくらいです。

 

次のページ中田先生はアラビア語の他にどんな言語を学習してきたのか?

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[caption id="attachment_939088" align="alignnone" width="525"] 「あなたが不幸なのはバカだから」 「ベストセラー『君たちはどう生きるか』 を読むとバカになる! 」 イスラーム法学者の第一人者にして 博覧強記の怪人・中田考がはじめて語り下ろした 極辛劇薬人生論。そこに〝愛〟はあるのか!? ————要するに自分が頭がいいとか、身体能力が高いというのはあまり重要ではなくて、自分の能力をちゃんと理解して分相応に生きるのが賢いということです。人間であっても、ミミズであっても、そこをまちがえると、どんなに身体能力が高くても知的能力が高くてもバカなんです。自分が賢いと錯覚したバカな人間は分を知ったミミズより劣ります。そういう意味で今の世界の教育はバカを作っているんです。分相応以上に自分ができると思っている人間を作っている。……それはたいていの場合、人を不幸にするんです。(本文中より抜粋) ————人が知るべきことは「自分が何をしたいのか」、そして「自分には何ができるのか」の二つしかありません。殆どの人は本当に自分がしたいことに気付いておらず、また自分に本当はできることをできないと信じこんでおり、逆に本当はできないことをできると思い込んでんいます。それがバカであり、本当の意味でダメな人です。 本書の目的は、本当に知るべきこと、つまり、自分が何をしたいか、自分に何ができるか、を気付く手掛かりを読者に与えることにあります。 実のところ、人が知るべきことは本当は二つではなく、三つです。その三つ目とは、「自分は何をなすべきか」です。……(あとがき抜粋)[/caption]

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中田 考

なかた こう

イスラーム法学者

中田考(なかた・こう)
イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

 

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