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「将棋を指してもらい、哲学談義をしたい」との依頼の青年がやって来た【中田考のレンタルおじさん】

中田考「レンタルおじさん、始めました」連載第3回

 

■中田先生はアラビア語の他にどんな言語を学習してきたのか?

 

Fさん:先生はアラビア語の他にどんな言語を学習されたんですか

 

中田:私はもともと大学の第二外国語はドイツ語で、大学院の入試もそれで通ったんですよ。ただ私の研究分野だとドイツ語は読む機会がほとんど無いので、単語はほぼ全部忘れているので、今は辞書を引かないと全く読めません。私の研究分野だと1939年に出版されたHenri LaoustのEssai sur les doctrines sociales et politiques de Taki-d-Din Ahmad b. Taimiyaという700頁ほどの大著が基本文献で必読なので、フランス語文法を独学で勉強して通読したので、今でもフランス語の方が初見レベルだと読めますね。西欧の言語は学術用語になるとラテン語起源の単語が多いので、抽象的な議論になればなるほどフランス語と英語もラテン語起源で単語が同じになってくるんで、専門分野の学術書だとうろ覚えのフランス語の文法と語彙の知識でもあれば大意はとれるんです。

 ヨーロッパ語でなんとか読めるのは、英語以外では独仏だけです。新約ギリシャ語は同志社大学の神学部にいた時にトライしましたが挫折しました。

 イスラーム地域研究で、ペルシャ語、トルコ語、インドネシア語、マレーシア語は一応一次資料を読み込んで当該地域についての学術論文を書ける(学術論文を書けるのは日本語、英語、アラビア語だけ)ぐらいには勉強しました。あとはアラビア語の理解を深めるためにヘブライ語を少し勉強しているぐらいですね。

 

Fさん:確かにラテン語系の語彙ですよね

 

中田:そうそう。文学なんかやってると難しいんだと思いますけれどね。自分の専門分野の学術論文を読むだけならばフランス語はそんなに難しくないから。

 

 

■イスラームの研究者も西洋哲学を修めるのか?

 

Fさん:イスラームの研究者も西洋哲学って修めるんですか?

 

中田:いやぁ、オリエンタリスト(欧米のイスラーム研究者)はあんまり勉強していないね。今のオリエンタリストは歴史家か地域研究者で一般的に無教養だからね。ただ私はカイロ大学の哲学科だったから。カイロ大学の哲学科というのはイスラーム哲学も含みますが、基本的には西欧的な普通の哲学科ですからね。私の在籍時の学科長アミーラ・マタル先生ははギリシャ哲学の専門家でした。私は自分自身の興味もあってヴィトゲンシュタインなんかを読んでいましたね。哲学書読む他に、シュライエルマッハーやガーダマーの解釈学とかね。今の若い人はポール・リクールとかあまり知らないでしょうね。

 

Fさん:ムスリム世界ではイスラーム研究者のことをオリエンタリストって呼ぶのですか?

 

中田:なかなか普通の日本人にイメージが難しいところだけど、みなさんが考えるイスラーム研究と、ムスリムの伝統的なイスラーム学とは全く違うのです。ムスリムにとってのイスラーム学って「全て」なんです。なぜならば、イスラームとは皆さんが考える一日五回の日課の礼拝やラマダーン月の斎戒断食やメッカ巡礼など狭い意味での人間の宗教儀礼だけではなく、動植物の生殖、気候変動、天体の運行まで森羅万象、世界のあり方の「全て」がイスラームだからです。

 

Fさん:先生のツイッターに書かれている「全てはイスラームの話です」っていうのは。

 

中田:それもそういうことです。

 

次のページ「全てはイスラームの話です」というのはどういうことか?

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[caption id="attachment_939088" align="alignnone" width="525"] 「あなたが不幸なのはバカだから」 「ベストセラー『君たちはどう生きるか』 を読むとバカになる! 」 イスラーム法学者の第一人者にして 博覧強記の怪人・中田考がはじめて語り下ろした 極辛劇薬人生論。そこに〝愛〟はあるのか!? ————要するに自分が頭がいいとか、身体能力が高いというのはあまり重要ではなくて、自分の能力をちゃんと理解して分相応に生きるのが賢いということです。人間であっても、ミミズであっても、そこをまちがえると、どんなに身体能力が高くても知的能力が高くてもバカなんです。自分が賢いと錯覚したバカな人間は分を知ったミミズより劣ります。そういう意味で今の世界の教育はバカを作っているんです。分相応以上に自分ができると思っている人間を作っている。……それはたいていの場合、人を不幸にするんです。(本文中より抜粋) ————人が知るべきことは「自分が何をしたいのか」、そして「自分には何ができるのか」の二つしかありません。殆どの人は本当に自分がしたいことに気付いておらず、また自分に本当はできることをできないと信じこんでおり、逆に本当はできないことをできると思い込んでんいます。それがバカであり、本当の意味でダメな人です。 本書の目的は、本当に知るべきこと、つまり、自分が何をしたいか、自分に何ができるか、を気付く手掛かりを読者に与えることにあります。 実のところ、人が知るべきことは本当は二つではなく、三つです。その三つ目とは、「自分は何をなすべきか」です。……(あとがき抜粋)[/caption]

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中田 考

なかた こう

イスラーム法学者

中田考(なかた・こう)
イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

 

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