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【教員の負担は軽くなるか】改革か廃止か…教員免許更新制の行き先

第90回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

教員免許更新制


令和に求められる教員とはどのようなものか。教員免許更新制をめぐる議論から文科省が求める教師像が見えてきた。廃止にせよ改革にせよ、忙しすぎる教員の負担が軽くなればいいのだが…。


■研修を更新制と紐付ける必要性の是非

 教員免許更新制の廃止が話題になったが、廃止されることになったとしても、より厳しい制度になるのかもしれない。
 8月4日に中央教育審議会「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会と教員免許更新制小委員会の合同会議が開かれた。ここで示された試案をたたき台にして、教員に求められる資質・能力が検討されていく予定になっている。
 つまり、「求められる教員像」を検討していこうというわけだ。その教員像にそぐわない教員は、「不適格」と評価されていくのだろう。

 7月13日の記者会見で萩生田光一文科相は、教員免許更新制について「現段階で廃止を固めた事実はない」と述べた。その直前に、教員免許更新制を廃止するという報道があったことを受けての発言である。
「教員免許更新制の廃止を文部科学省が固めたという趣旨の記事が掲載されたことは承知していますけれど…」と前置きして、萩生田文科相は、抜本的な検討を中央教育審議会で議論が行われている途上であり、「現段階で教員免許更新制の廃止を固めたという事実はございません」と断言している。

 そして、「私自身は、研修の必要性は十分分かるのですけれど、更新制と紐付けることによって研修が本当にいいものになっているかどうかということも含めて、中教審の皆さんにいろいろ精査していただくことをお願いをしている立場」だと続けている。
 研修の必要性は分かっているが、更新制での研修でいいのか…そういう疑問を萩生田文科相が持っていることがうかがえる。

 さらに彼は、「廃止だけ書いている社もあるのですけれど、要は、研修の必要性は全く変わっていないものですから、そこは改めて強調しておきたいなと思います」と続けた。
 研修には触れず、教員免許更新制の廃止だけを伝えた報道に対する苦言とも皮肉とも受け取れる発言だった。そこからは、教員免許更新制の名前を残すかどうかということではなく、研修をどういう形にしていくかに文科相をはじめとする文科省が重きを置いているを察することができる。

 研修における教員の負担を軽くすることを考えているのならまだしも、そうでなければ、教員の負担は重くなる方向に向かっていることになる。それが、8月4日に合同会議につながっているわけだ。
 その合同会議に、「『令和の日本型学校教育』を担う教師の学び」(新たな姿の構想)という資料(今年5月24日の教員免許更新制小委員会の資料)が提出されている。「求められる教員像」のたたき台の一つということになる。

 

■文科省が教員に求める資質・能力とは

 ここには、まず「教師はそもそも学び続ける存在であることが強く期待されている」と書かれている。教員免許更新制の目的を文科省は、「その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に最新の知識技能を身に付けること」と説明している。そのために10年ごとに研修を義務付け、それを受講しなければ教員免許が更新されない制度なのだ。
 しかし文科省は、現状の研修では不十分と考えているようだ。だから、「学び続ける存在」を強調している。

 さらに「教員は均一な集団」ではなく、「より多様な専門性を有する教職員集団」の構築が必要だとしている。そのためには、教員が「全教員に共通に求められる基本的な資質能力を超えて、新たな領域の専門性を身につけるなど強みが必要」としている。
 それには、「一人一人の教師の個性に即した、いわば『個別最適化』された学びであることが必然的に求められる」としている。教員免許更新時の画一的な研修では不十分、というわけである。

 文科省は、これからの教員に高いレベルの学びを求めている。しかし、そのレベルを教員自身が自由に選ぶことができるわけでもなさそうだ。
「明確な到達目標が設定され、到達目標に沿った内容を備えている」ことが必要であり、「質の高い学びのコンテンツが豊富に提供」されるという方針が示されている。教員が何を学ぶか、その目標と、それを実現するためのコンテンツは文科省が定めるという方針だ。
 その学びは、「オンラインで小刻みな形で学ぶといったスタイルも含め、教師が負担なく選択し、受講できるようになっていることが求められる」とも記されている。オンラインでの小刻みな形での学びということは、指定された大学で決まった時間の講義を受ける現在の教員免許更新制とはかなり異なる。

 自分で時間を工面しながらコツコツと学ぶことを求めていることになる。「教師が負担なく」と述べているが、はたして教員の負担は教員免許更新制よりも軽くなるのだろうか。忙しいなかで、「まとまった時間を工面する教員免許更新制よりは楽だろう」という意見もあるだろうが、コツコツと時間を見つけて学ぶことは、それはそれで楽なことではないはずだ。

 もちろん、オンラインなどで講義を受講すれば終わり、にはならないようだ。「学びの成果が可視化される」ことも、検討事項として盛り込まれている。「学びの成果が可視化(即ち何が身についたのか自ら説明できる状態)されることにより、教師は自らの『現在の姿』を適時適切に更新することが可能となる」と説明されている。教員自らのためにも役立つだろうが、それ以上に、「管理する側」にとっては重要なことに違いない。

 さらに、「学びの成果を全国的に証明できる仕組みが構築されていること」も検討されようとしている。これは全国児童生徒の学力の成果を全国学力テストで証明しようとしているのと似ていないだろうか。
 それが過剰な競争を生んでいる実態を考えれば、教員もまた競争を強いられていく仕組みになっていく気がしないではない。「うちの教員が全国で最下位なのはケシカラン、もっと対策を講じろ」と命令する首長や教育長が出てくるのかもしれない。

 この資料にある項目を実現していくには、現在の教員免許更新制では不十分なのだろう。大幅な改革か、もしくは廃止して新たな制度として再スタートするしかないように思える。
 しかし、いずれにしても教員の負担は軽くならないのではないだろうか。

 

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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