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熾烈化する水ビジネス戦線―日本の水が世界市場を勝ち抜くために―

日本の水が危ない⑦

【日本の水道料金は他の先進国と比べて安い】

 日本の水道料金は他の先進国と比べて安い。だからこそ水の消費量が増えやすいともいえるが、それと同時に、単価が安いにもかかわらず日本の水処理にかかる金額は世界的に見ても大きく、ここから、いかに日本人が多くの水を利用しているかがわかる。これもやはり、海外水メジャーの目には、一人当たりの消費額はまだ小さいが人口規模が大きい開発途上国とは異なる意味で利益を期待させるものだろう。

 そして第三に、日本の土地制度があげられる。多くの国では外国人や外国企業の土地保有に一定の歯止めがあるが、日本では原則的に規制がなく、これは水道事業にとっても無関係ではない。

奥多摩湖

 水道事業のコンセッション方式では、受注した民間事業者が新たな投資を行うことも認められている(新規投資分の動産・不動産の所有権は契約失効段階で自治体に返納する)。ところで、近年では広域化の一環として、水源から水道に水を供給する水道用水供給事業と水道事業の連携も強化されている。例えば、東京都水道局は多摩川上流域に2万3000ヘクタールの森林を保有しているが、水源地を保全するため、奥多摩町から県境を越えて山梨県甲州市に至るエリアで民有林の売却申し込みを随時受け付けている。土地買収に規制がない日本では、より高い値段で海外の水企業が水源地を購入することも、法的には可能だ。

甲州市に広がる自然

 その場合、水源地の所有権は契約終了後に返納されるが、事業者はその間、投資額に応じて、あるいは30年前後という長期にわたって事業を独占できるだけに、投資額に見合う以上に料金を引き上げることもしやすい。いわば事業拡張をしやすい土地制度であることも、海外水メジャーにとっての日本の魅力といえる(本稿脱稿直前の2019年2月、安倍総理は海外企業による土地取得の制限について検討することを表明したが、その検討は始まったばかりで、制限の内容も見通しが立っていない)。

KEYWORDS:

『日本の「水」が危ない』
著者:六辻彰二

 

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 昨年12月に水道事業を民営化する「水道法改正案」が成立した。
 ところが、すでに、世界各国では水道事業を民営化し、水道水が安全に飲めなくなったり、水道料金の高騰が問題になり、再び公営化に戻す潮流となっているのも事実。

 なのになぜ、逆流する法改正が行われるのか。
 水道事業民営化後に起こった世界各国の事例から、日本が水道法改正する真意、さらにその後、待ち受ける日本の水に起こることをシミュレート。

 

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六辻彰二

むつじしょうじ

国際政治学者

1972年生まれ。博士(国際関係)。国際政治、アフリカ研究を中心に、学問領域横断的な研究を展開。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。著書、共著の他に論文多数。政治哲学を扱ったファンタジー小説『佐門准教授と12人の政治哲学者―ソロモンの悪魔が仕組んだ政治哲学ゼミ』(iOS向けアプリ/Kindle)で新境地を開拓。Yahoo! ニュース「個人」オーサー。NEWSWEEK日本版コラムニスト。


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  • 2019.03.13