ドイツの高速列車ICEの旅、バーゼルからフランクフルトへ |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

ドイツの高速列車ICEの旅、バーゼルからフランクフルトへ

思い出のヨーロッパ鉄道紀行

バーゼルSBB駅の荘重な駅舎

国際列車「チザルピーノ」(前回)で到着したバーゼルSBB駅は独仏スイスという3か国の国境に面したターミナル駅にふさわしい威容を誇っていた。それまで何回も通り過ぎたことはあったのだが、下車したことはない。それで、1時間ほど乗り換え時間があったので、駅前に出て、重厚な駅舎や広場に出入りする路面電車を眺めたりして過ごし、多少なりとも街の空気を感じることができた。

バーゼルの路面電車
ICEの発車案内
発車を待つICE
ICE車内

駅構内に戻り、ドイツのフランクフルトに向かうため、ベルリン東駅行きの高速列車ICEInterCity Express)に乗車する。ICEは、いつのまにか車両の種類が増えてややこしいことになっていた。このとき乗ったのは、ICE1と呼ばれる第1世代の編成で、先頭と最後尾が動力車になっている動力集中型列車だ。動力車には客室がないので、側面にICEと赤く大書してある。車内には、コンパートメントと日本の新幹線と同じようなオープン車室が組み合わされている。空いていたので、広々としたオープン車室に席を取った。向かい合わせの4人席や2人席など多様な座席配置だ。

ICEの車窓_バーゼル~フライブルク間

1612分、定刻に発車。滑るようにホームを離れると、すぐにライン河を渡る。5分ほどでDB(ドイツ鉄道)の管轄するバーゼル・バーディッシャー駅に停車すると、いよいよドイツ国内に入る。フランスとの国境となるライン河に沿って走っているはずだが、やや離れているので、はっきりと川面を確認できるわけではない。平坦な田園地帯を心地よいスピードで走り、30分少々でフライブルク中央駅に到着。フライブルクは大学や各種研究機関がある学園都市であるとともに環境先進都市として知られている。そうした雰囲気を感じ取ることができるような、瀟洒で清潔感あふれる駅だった。

バーデン・バーデンのカラカラ浴場
バーデン・バーデンの散歩道リヒテンターラ―アレー

さらに50分近く走ると、バーデン・バーデンに到着。ヨーロッパ有数の温泉保養地である。ここは、もう四半世紀前のことになってしまうけれど、数日間滞在した思い出の場所だ。温泉地は駅からかなり離れたところにあり、徒歩ではなくバスで訪れたと思う。有名なカラカラ浴場は、温泉といっても水着を身に着けて入る温水プールのようなものだった。それとは別に全裸でコースを回る混浴の施設もあり、貴重な体験をした。温泉やカジノとは別に作曲家ブラームスが何年か滞在した家がミュージアムになっていたので、緑豊かなリヒテンターラ―・アレーを散歩しながら向かった。ほかにも音楽関係ゆかりの場所は多い。バーデン・バーデンは20世紀前半に活躍した名指揮者フルトヴェングラー終焉の地でもあるが、それを記念したものは見つけられなかった。

マンハイムで左のICEから右のICEに乗り換え

そうした過去の思い出に耽っている間にも列車は北上を続け、カールスルーエ中央駅を経てマンハイム中央駅に停車した。このまま乗っていてもフランクフルトに行けるのだが、知人との待ち合わせ場所は中央駅ではなく空港駅である。それで、マンハイムで別のICEに乗り換えることになった。

 

マンハイム中央駅で降りると、同じホームの反対側にミュンヘン中央駅発ハンブルク・アルトナ駅行きのICEが到着するとのアナウンスがある。しばし待っていると、動力分散式の完全な電車編成でICE3と呼ばれる列車がホームに滑り込んできた。夕方で出張帰りのビジネスパーソンが多いせいか車内はかなり混んでいる。ユーレイルパス利用で指定席は取っていない。空いている席があれば自由席として座っていいのだが、かろうじて見つかった席は進行方向とは逆の相席だった。もっとも乗車時間は30分ほどなので文句は言えない。

 

ICEのネットワークはドイツ全土に広がっていて、マンハイムのようにICE同士で乗り換え可能な拠点駅がハノーファー中央駅やヴュルツブルク中央駅などいくつもある。日本国内で例えて言うと、京都駅始発の天橋立行き特急「はしだて」と新大阪駅始発の城崎温泉行特急「こうのとり」が、たすきがけのように交わって相互に乗り換えが可能なJR西日本の福知山駅のようなものだ。

フランクフルト空港駅に到着

都市近郊とは言え、森が多くて緑豊かなところを走り、乗り換えたばかりのICEは、あっという間にフランクフルト空港駅に到着した。空港駅は昔から近郊電車Sバーンの地下駅として存在していたが、長距離列車に乗り換えるために一旦中央駅まで出る必要があった。そこで1999年、空港に隣接する長距離列車用の空港駅が開設され、中央駅を経由しないで直接ドイツ各地に行けるようになったのだ。それゆえ古色蒼然とした歴史あるターミナル駅が多いドイツにあって近代的な構造の駅として異彩を放っている。空港駅らしく、航空機で出発したり、到着してこれからドイツ各地へ旅立つとしている大きなスーツケースを持った乗客が目に付く。

 

朝、ヴェネツィア・メストレ駅から旅立って10時間半ほど。長い列車旅が終わり、エスカレータを上って待ち合わせ場所へと急いだ。

オススメ記事

野田 隆

のだ たかし

1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/nodatch/

 

この著者の記事一覧