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幻想が現実に打ち勝った「東京五輪」【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」32

 

◆皮算用とラストディッチ

 

 2020年五輪が「主観的願望に基づく皮算用」をやらかしたのは、震災復興についてだけではありません。

 開催の決まった2013年といえば、自民党が民主党から政権を奪還、第二次安倍内閣が発足した翌年。

 当時の安倍内閣は「日本を、取り戻す。」と謳っていました。

 

 1964年東京五輪が高度成長の象徴なのを思えば、「復興五輪」の「復興」には、平成になってから続いてきた低迷と衰退を脱却、あらためて日本を繁栄させるという意味合いもこめられていたのは疑いえない。

 しかしこれもまた、繁栄回復が達成されてから開催を決めるのではなく、「開催するころには達成されているだろう」という皮算用で決めてしまった。

 

 震災復興や繁栄回復がちゃんと達成されれば、それでもいいですよ。

 けれども虫の良すぎる発想は、たいがい現実に裏切られる。

 「2020年には震災復興も達成され、日本は繁栄を回復しているだろう」という見通し自体、しっかりした根拠に基づくものではなく、衰退が続く中で天災にも見舞われたことからの現実逃避だった恐れが強いのです。

 はたせるかな、2010年代の日本は、昔日の栄光を取り戻せないまま、衰退の道をズルズルたどってゆきました。

 

 ところがこうなると、人は興味深い錯覚、いや倒錯に陥ります。

 「2020年には復興や繁栄回復が達成されているだろうから、五輪を開催しても大丈夫だ」から「2020年に五輪さえ開催すれば、復興や繁栄回復が達成されたことになるはずだ」へと、発想がひっくり返るのです!

 

 くだんの倒錯を、私は「ラストディッチ」と名づけました。

 「最後の防衛線」とか「土壇場」を意味する英語ですが、現実に合わせて自分の考えを変えるのではなく、自分の考えが正しくなるよう現実認識を歪めることで、どうにか精神のバランスを保とうとすること。

 むろん、追い詰められた者の最後のあがきです。

 

 2020年東京五輪は、もともとラストディッチ性が強かったわけですが、決定打となったのは言うまでもなくコロナ禍でした。

 安倍総理(当時)は昨年、「人類がウイルスに打ち勝った証として五輪を開催する」なる旨を表明したのです。

 「一年延期したのだから、開催するころにはパンデミックが終息しているだろう」と考えたに違いない。

 

 例によって皮算用ですが、例のごとく現実は思い通りにならなかった。

 さあ、何が起きるか?

 

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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