生活に困るほどお金がなくなった時、まずすべきこととは?【沼田和也】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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生活に困るほどお金がなくなった時、まずすべきこととは?【沼田和也】

『牧師、閉鎖病棟に入る。』著者・小さな教会の牧師の知恵 第10回

 

 わたしも貧困の不安を味わった一人である。10年ほど昔、妻が病に倒れた。わたしは悩んだ末、彼女が回復するまで看護に徹しようと仕事を辞めた。その自覚はなかったが、今で言う介護辞職に近い。ところが現実は甘くなかった。退職金や知人たちからのカンパは、わたしが見積もっていたよりもはるかに早く、あっという間に家賃や光熱水費に消えていった。貯金がいよいよ底をついてきたとき──わたしは公的な窓口に相談するという発想を持たなかった──強い不安のあまり、わたしもまた心身の不調に陥ったのである。わたしは頻繁にパニックの発作を起こし、過呼吸に苦しめられるようになった。その後、焦ったわたしは取り急ぎ郵便局の配達アルバイトに就いたのだが、その仕事がまた、わたしにはどうにも向いていない仕事であった。よく考えもしないで飛びついた仕事だったのだが、辞めてまた別の仕事を探す気力もなかったわたしは、上司に罵倒されながら半年ほど郵便局の仕事を続けた。たった半年と言われればそれまでである。だが、よく半年もったと思う。半年後、わたしはボロボロになっていた。

 

 今だからこそ思う。お金が無くなることを見越した上で、退職し帰省した時点でまず地元の福祉課などに相談に行き、妻の不調を訴え、適切な福祉に繋がるべきであった。仕事を探すにしても、インターネットでちょっと調べて「よし!郵便局だ!」と即決するのではなく、ちゃんとハローワークに行くべきであった。そして、窓口で自分の生活状況や健康状態を担当者に伝え、妻の世話をしながらでもできる仕事を、たとえ郵便局より収入が低かったとしても、選べばよかったのである。

 だが、この「落ち着いて考え、判断すること」こそが、追い詰められた人間には最も難しいことなのだ。お金がなくなってくると気持ちの余裕も失われ、そういう冷静な思考ができなくなってくるのである。そして、このような仕方で追い詰められるのが、わたし一人だけの特殊な例ではなかったということを、わたしはこんにち、貧困に苦しむ人たちの悩みを聞きながら実感している。第三者から見て「お金がないのに、なぜそんな無謀なことを」という「自滅的な」判断へと、じっさい貧困者は流されてしまうことがあるのだ。お金について落ち着いて考えることも、落ち着いて考えていられるだけの、最低限のお金があってこそできる。貧困状態にある人には、その最低限のお金がないのだ。そんな人に「まあ、落ち着きなさい」と言えるだろうか?

 

 お金がなくなってきたら。これはやばいと、ちょっとでも思ったら。「こんなことで相談していいのかな?」の時点で、相談したほうがいい。早ければ早いほどいいから。独りで抱え込むのではなく、福祉に繋がってほしい。今すぐ貧困が解決されるわけではない。けれども、自分の将来を落ち着いて考えるためのアドバイスを、窓口の担当者はしてくれるはずである。しかに、わたし個人が出会ってきた福祉関係者の印象だけでそのように断言することはできないかもしれない。だが、独りで抱え込むよりはずっとましだと思っている。自分自身が追い詰められた経験からも、また、他人の福祉に同行した経験からも、そう思う。自分を独りで追い詰めるのではなく、焦るときこそ立ちどまって、わたしたちと一緒に考えよう。あなたに手を差し伸べる人は必ずいる。

 

■生活困窮者自立支援制度の窓口(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000073432.html
とくに同ページ内リンクの
https://www.mhlw.go.jp/content/000707280.pdf

 

文:沼田和也

 

 

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沼田和也

ぬまた かずや

牧師・著述家

日本基督教団 牧師。1972年、兵庫県神戸市生まれ。高校を中退、引きこもる。その後、大検を経て受験浪人中、1995年、灘区にて阪神淡路大震災に遭遇。かろうじて入った大学も中退、再び引きこもるなどの紆余曲折を経た1998年、関西学院大学神学部に入学。2004年、同大学院神学研究科博士課程前期課程修了。そして伝道者の道へ。しかし2015年の初夏、職場でトラブルを起こし、精神科病院の閉鎖病棟に入院する。現在は東京都の小さな教会で再び牧師をしている。ツイッターは@numatakazuya)

 

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  • 沼田 和也
  • 2021.05.31