マンション管理組合の『1円も払いたくない病』
話題の不動産プロ集団“全宅ツイ”による不動産コラム⑨
◆「無料サービス」は誰が負担しているのか
不動産は高額のものだけに、業者は購入検討者と会うために、様々なプロによる「無料サービス」を提供します。
とはいえ、そこはプロですから、ある人に無料でサービスを提供したら、必ず他の誰かからお金(報酬)をもらわなければ食べていけません。無料サービスを受ける人は、目の前にいるプロがどのように報酬を得ているのかを常に意識していないと、“ただより高いものはない”となりがちです。
例えば、マンションの購入相談に出かけていくと「ここがいいですよ」と無料で物件を紹介してくれる会社があります。しかし、そこで紹介されるマンションは、売主が紹介手数料を払っているものが優先され、ネットで見かけた物件が紹介されることは稀です。
お金を使わなくても、良い物件なら勝手に人が集まるからです。
他にもモデルルームにいけば、今度は無料で資金相談に乗ってくれるFPさんがいます。実際にはかなり難しい金額の物件について「わたしでも買えますか?」と聞いた場合「ちょっと厳しいですね」というシビアなアドバイスを貰えることはないでしょう。
当然です。彼らは誰かから、何らかの目的のために報酬をもらって、そこで無料サービスを行っているのですから。
◆プロを値切ると管理組合に何が起こる?
マンションは買うと必ず管理組合の組合員になり、大抵は輪番で理事会の役員が回ってきます。私はずっと立候補で理事を10年、理事長の勉強会の代表をしていますから、かなり変わり者ということになるかもしれません。
管理組合がお金を使う場合、総会を通して認められた中からしか使えないので、支出の合意形成は大変です。「何にお金がいるのか」を考えるよりも、支出提案を理事会や総会で通過させることが理事の仕事になるのですが、これは実際やってみないと分らない。
大きなマンションだと、年間の予算や、大きな修繕工事での支出が億円単位になったりします。管理会社に全部お任せしているとすぐに「ボラれているのでは?」と住民に言われるので、最低限、検算はするしかありません。
真面目な理事さんほど、情報収集に熱心で、管理士事務所などプロのコンサルの主催する「無料セミナー」にお出かけしてアドバイザー探しをすることになります。さすがに、自腹を切ってまでお勉強したいという理事はいませんから、セミナーは無料、そこで気に入ったプロにお願いすることになります。
元々がコスト削減を目的にしているので、この相談費用も1円でも安く済ませたい。つまり、理事会はプロの知見をただで手に入れたがる傾向がとても強いのです。それに合わせプロがよく提案するのが【組合が管理会社に払っている管理の委託経費を削減できたら、その1年目の削減額だけコミッションでお代は頂きます】という方式。
これ、マンションの住人に対しては「削減できなければ1円も払わないで済みます」と総会で言えるから通りやすいんですね。
この場合、プロは霞を食って生きていけませんから、コミッション目当てで管理組合の支出をとにかく無理やり削減するしかありません。管理費の多くは人件費ですから、管理員や清掃員などの人減らしに走りがちになります。
管理支出を無視した削減結果として、管理事務室に行っても誰にも会えない…となると、肝心の「住民の満足度はどうなのか?」と、本末転倒な結果になってしまいます。
コスト削減が主目的でコンサルに入ると、やがてそのコンサルコストが削減目標になってしまうので、プロはさっさと済ませて抜けようとします。削減額に比例した報酬を得てさっさと去るタイプのコンサルを、私は『焼き畑農業式』と名付けて採用は避けています。
同じ問題は、修繕工事の工事設計を行うコンサルの起用でも起こります。相手は建築士資格などをもった「プロ」なので、費用は相応にかかるはずなのに、管理組合側が1円でも安いで会社を選んでしまうと、アドバイスして選定した施工会社からバックリベートを貰うしか報酬を確保する方法がなくなります。
この 「不適切コンサル問題」は、最近マスコミでも問題として取り上げられることが多くて、私もよく組合側の人間として取材を受けます。
しかし、「相手が食っていける最低限の報酬も払ってなければ必ず起こる問題で、組合も悪い」とコメントすると必ずボツになります。
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