惜別、上野動物園モノレール
10月31日運行を休止する日本最古のモノレールに乗車
東京の上野動物園モノレールはわが国で最古のモノレールと言われ、浜松町と羽田空港とを結ぶ東京モノレールに7年も先立つ1957年12月に開業した。人気もあり、黒字経営なのに車両の老朽化が進んでいることから2019年10月31日をもって運行を休止することが発表された。
このモノレールは上野動物園内を走るものではあるけれど、東園と西園の間にある公道をまたぐこともあって園内の遊戯施設ではない。鉄道事業法にのっとった鉄道であり、正式名称は東京都交通局上野懸垂線という。そんなこともあって、鉄道ファンから熱いまなざしが注がれ、休止が迫るにつれてお名残り乗車や走行シーンを撮影しておこうという「葬式鉄」がにわかに出没するようになった。考えてみれば、上野動物園には何年も行っていないし、モノレールに乗ったかどうかも定かではない。このまま乗らずに終わってしまうのも悔しいので、休止の1週間ほど前にあたる秋晴れの平日に出かけてみた。
上野懸垂線の両端の駅は動物園の中にあるので、乗車するには上野動物園の入場券を買って園内に入らなければならない。JR上野駅公園口の目の前にある東京文化会館と西洋美術館の間の道を歩き、国立博物館前の噴水を右手に見つつまっすぐに進むと、5分程で上野動物園の表門にたどり着いた。
並ぶこともなく入場券を買って園内へ。中の様子はすっかり忘れていたので、「モノレール方面」と書かれた案内表示に従って歩いて行く。パンダを見るための行列も象やサル山も素通りして進むと、目の前にモノレール東園駅が姿を現した。想像していたよりも大きな駅舎だ。動物園らしく、キリンやシマウマ、それにパンダのイラストに囲まれて東園駅と言う看板が目に入った。
モノレールに乗るには入場券のほかに乗車券を別途買わなくてはならない。自動改札はなく券売機できっぷを買うのだが、今どきスイカやパスモと言ったICカードは一切使えない。都営まるごときっぷという都営地下鉄や都バス、都電などが乗り放題のフリーパスでも乗れないとのこと。久しぶりに昔懐かしいやりかたで小銭を投入して150円の片道きっぷを購入した。順路に従ってすすむとモノレールの軌道を横切る踏切(?)があり、安全確認も兼ねて係員が立っている。きっぷを見せると回収されてしまった。記念に貰うこともできない。きっぷを記念に残したかったので、のちほどさらに150円を投資して別途きっぷを購入し、乗らずに手元に残した。
踏切と言っても線路があるわけではなく、コンクリートの敷地で上を見上げればモノレールの軌道が通じている。きっぷ売り場の反対側がホームとなっていて、しばらくすると右手から2両編成の車両がやってきた。この車両が上野動物園のモノレールの車両のすべてであり、西園駅との間を行ったり来たりしているのだ。乗っていた人全員が降りると、いよいよ車内へ入る。せっかくなので先頭車に乗り込み、運転台のすぐ後ろの展望席に着席した。ドアの後はロングシートだ。ただし、窓を背にするのではなく、車体の中央で背中合わせとなり、それぞれの窓を向く座席配置だ。カラフルなシートで、こちらの席の方が人気だ。おかげで競うこともなく運転台後ろのクロスシートにありつけた。しかし、運転士が乗りこむと、前面展望を楽しむことはほぼできない。人気がないはずだ。
すぐに発車となる。ミュージックホーンを鳴らしながら走りだす。どこかで聞いたことのあるメロディーだと思ってあとで確かめたら、JR東日本の成田エクスプレスなど特急電車のものと同じだった。
最初は木立の中をゆっくりと走る。左手の狭い道を人が大勢歩いているが、ほぼ水平の位置である。モノレールと言うよりは普通の電車の車窓みたいだ。やがて右にカーブすると崖から飛び出すような感じになり、クルマも走る公道をまたぐ。ようやくモノレールらしくなり、空中散歩をしている気分だ。左手には不忍池が見えてきた。眼下には人が大勢いて、モノレールを見上げてカメラを向けている人が目につく。ゆるやかに右にカーブしつつ、吸い込まれるように西園駅の構内に入って行き停車した。僅か1分30秒のミニトリップ。これで150円は高いような気もする。走行距離は300mで京都の鞍馬山にあるケーブルカーに次ぐ日本で2番目に短い鉄道である。
どちらの駅も右側にホームがあったので、車体のドアは西園駅に向かって右側にしかない。エレベータが待っていたので、何とか入りこんで地上に降りた。地形の関係であろう。西園駅の方はホームが高架上にあり、いかにもモノレールの駅らしい。モノレールらしく高いところを走っているのは西園駅付近しかないので、ここで折返して東園駅へ向かうモノレールを撮影してみた。見上げると車体の底にもカラフルなイラストが描かれている。この日は7分毎に行ったり来たりしていたので、モノレールの雄姿を手軽に何度も撮影することができた。
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