やさしい社会であってほしい ~結婚や出産がうまくいかなかった人たちがその後生きるためのセーフティネット~
そもそも「まともに育てる」とは具体的にどういうことでしょうか。
人それぞれ考えや価値観に違いはありますが、「親は愛情をもって子どもを守り、子どもは親に守られながらしっかり育っていく」ことが親子関係の基本である点については、誰もが納得できるでしょうし、どのような親子の形にも共通するのではないかと思います。
(『インターネット赤ちゃんポストが日本を救う』著:阪口源太、えらいてんちょう)
■人生を力強く支えるセーフティネットの創出を
結婚に限らず、日本人の多くは慎重に行動しがちです。就職において大企業や公務員が人気であることからもわかるとおり、安定や安心を好み、将来まで見通せることを大切にします。また、失敗を避けたいという気持ちも強いように感じます。「失敗したらその時また考えればいい」「失敗したら次は失敗しないようにすればいい」という心持ちでいてもいいと思うのですが、受け入れがたいようです。
逆に最初から失敗しないようにとすればするほど、慎重になってなかなか行動に至りません。
そんな背景から、現代では結婚がとても難しいものになってしまっているのでしょう。
出産に関しても同じことが言えます。
子どもが生まれた場合は結婚のように「ダメだったら別れればいい」と簡単に言えませんが、だからと言って重く考えすぎても仕方がありません。「子どもを産むならまともに育てたい。習い事もさせて、大学にも行かせたい。だけどそのためにはお金がたくさんかかる……」と考える人は多いでしょうし、その気持ちは確かにわかります。
しかし、そもそも「まともに育てる」とは具体的にどういうことでしょうか。大学へ進学させて定職に就かせることでしょうか?
いろんな人間がいる以上、いろんな親がいます。いろんな家庭があります。それこそが社会の多様性を支える一因になっています。全員に大卒や正社員であることを求める社会には、違和感を覚えます。
日本は出産・子育てに関する支援が比較的充実している国です。子どもが生まれれば児童手当が月1万5000円支給され、子どもの医療費は無料、義務教育も全部無料です。近年は、東京都では私立も含めて高校まで実質無償化され、塾の費用を支援してくれるNPOもあります。
大学の学費は安くはありませんが、そもそも子どもが大学へ進学するかもわからない段階で、「子どもを大学にやれないから」と悩むのは少し気が早いのではないでしょうか。そう考えれば、出産に対してそれほど慎重になっても仕方がありません。
それでも、出産や子育てが初めて経験する出来事であることに変わりはありません。どうにもならないほど困難な状況に陥ることもあると思います。むしろ、一回でうまくいくのであればそれは極めてすごいことだ……と考えるべきです。
日本の社会は「できて当然、できなければダメ」という評価をしがちですが、本当はそうではないのです。結婚も出産も子育ても、生活ができて食べていければ万々歳で、すごい成果なのです。
ですから万が一、結婚や出産がうまく行かず困難な状況になってしまった人がいたのなら、彼らが追い詰められてしまうことなく、その後の人生に向けて立ち直ることができるセーフティネットを社会が用意してあげることが必要なのです。その点に関して言えばこの国はまだまだ不十分であると思います。
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『インターネット赤ちゃんポストが日本を救う』
著者:阪口 源太(著)えらいてんちょう(著)にしかわたく(イラスト)
親の虐待や育児放棄を理由に国で擁護している約4万5000人の児童のうち、現在約7割が児童養護施設で暮らしています。国連の指針によると児童の成育には家庭が不可欠であり、欧米では児童養護施設への入所よりも養子縁組が主流を占めています。
本書ではNPOとしてインターネット赤ちゃんポストを運営し、子どもの幸せを第一に考えた養子縁組を支援してきた著者が国の制度である特別養子縁組を解説。実親との親子関係を解消し、養親の元で新たな成育環境を獲得することができる特別養子縁組の有効性を、マンガと文章のミックスで検証していきます。