自分の言い分を通すために、「オリンピック・パラリンピック」を利用する人たち【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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自分の言い分を通すために、「オリンピック・パラリンピック」を利用する人たち【仲正昌樹】

丸川珠代五輪担当相は8月10日の閣議後の記者会見で、東京オリンピック期間中に新型コロナウイルスの感染者数が増加したことについて、「五輪の開催は感染拡大の原因にはなっていないものと考えている」との見解を示した。

 

 この問題に限らず、メディアは、飲み屋とかデパ地下が危ないといった“専門家の発言”に科学的根拠があるかのように伝えるが、「感染症の専門家」の発言が尊重されるべきは、コロナウィルスがどのような状態の人からどのくらい排出され、それが何を介して他の人の身体に侵入するかであって、特定の場所や空間で人間がどう行動するかは彼らの専門外である。恐らく社会学や心理学の領分だが、その方面の専門家をつれてきても、「〇〇のようなタイプの飲み屋だと、飛沫を飛ばしたり、同席者の身体に接触したりする可能性が△△%高くなる」、というような正確な分析を出すことはできないだろう。

 昨年の始めにコロナ問題が本格化して以来、テレビやネットメディアに登場する(医師でない人さえ含む)“コロナ専門家”が、コロナに関連付けることで、人間行動全般を予測する“専門家”になり、コロナの犠牲者がどれくらいの幅で収まれば終息するのか決める“権威”さえ持っているかのように見なし、彼らを英雄視する風潮が強まっている――どういう病気の人のためにどれだけの医療資源を割き、どれくらいの不便を他の国民にかけるかは、政治が決定することである。オリ・パラ問題で、それがますます極端になっているように思われる。“感染症の専門家”であれば、オリ・パラの感染対策の妥当性についてコメントすべきであって、国民の行動の変化を予言したりすべきではない。

 こうした安易な“心理学”や“専門家”権威主義も、政府・自民党を罵倒できるネタなら何でもいい、真面目にやっている選手や関係者を苦しめることになっても、全ては政府・自民党のせいだ、という発想に由来するものだろう。

 

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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  • 2020.08.25