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養護が必要な子どもの3割ほどしか里親のもとで養育されていない ~慎重な機関と強すぎる親権~

実親の親権が強すぎる日本

■慎重になり過ぎる専門機関

 次に、実親との生活が困難な児童に最初に接することになる児童相談所をはじめとした、専門機関の対応について考えてみます。彼らが慎重になり過ぎていることが、里親への委託が十分に進んでいない理由のひとつではないか、という観点です。

 先ほど示したように、社会的養護を必要としている子どもはたくさんいます。ならば里親への委託が少ない理由は、里親を希望する夫婦が足りていないからではないか、と想像した方も多いかもしれません。

 しかし、事実は全く逆です。待機児童ではなく「待機里親」がたくさんいるのが現状です。特別養子縁組に関して言えば、縁組がなかなか成立しないために、里親になりたくてもなれないという状況が起こっているのです。

 現在の制度では里親を希望する夫婦は、児童相談所に何度も通い半年ほどの研修を受けた後、登録することになります。そうした研修や実習、さまざまな過程を踏んでようやく認定をもらった後、里子との縁組までずっと待たされることになるのが現状です。そのまま時が経ち、子どもを育てる適正年齢を過ぎてしまうことも少なくありません。

 そうした夫婦の中には、それ以前に多額の費用と労力をかけて不妊治療を行ったところ思わしい結果を得られず、その上、特別養子縁組もなかなか実現できずつらい思いをしている、というケースもあります。

 もちろん特別養子縁組は子どもの福祉のための制度であり、最優先に考えるべきは子どものことですが、一方で里親を希望する夫婦がないがしろになっていることもまた、憂慮すべき問題ではないでしょうか。

 そもそも、人ははじめから親であるわけではありません。子どもが生まれ、実際に子育てを行っていく中で、子どもの成長と一緒に親として成長していくものです。今回の著者のひとりであるえらいてんちょうさんには、子どもがふたりいます。上の子が生まれた時、はじめは親の実感がありませんでしたが、1カ月、2カ月と共に時間を重ねるにしたがい、強い愛着が湧いてきたそうです。自分でも想像しなかったほどに愛情が増し、いまは「何に代えても守りたい」と思えるそうです。これは、実際に親になってみなければ分からない心情だと思います。

 養子を望む夫婦には「親としての資質」が重視されています。確かにそれは大事ですが、一方で親を経験したことがない人に「親の資質」を求めるのは難しいものがあります。

 どんな人間にも欠点があるのだから、どんな親にも欠点がある。子どもとの関わりの中でそれを乗り越えたり、折り合いをつけたりしていく。そのような過程を通じて、親として成長していくのだと思うのです。

 はじめから完璧な親など存在するはずがありません。親としての資質を求めすぎた結果が、いまだに7割を占める施設への入所措置と、数多くの待機里親という現状なのです。

 児童相談所としては、行った先で虐待などの問題が起こる、いわば養子縁組の「失敗」が怖くて里親に出せない心理もあるでしょう。

 また厚生労働省は、子どもの福祉のために「永続的に家庭に定着させること」を優先しており、一回養子縁組に出したら戻さないスタンスが強いという事情が、こうした状況の背景にあると考えられます。

 永続性に気を取られ過ぎた結果、本来必要な里親委託の数パーセントしか実現できていないとなれば本末転倒です。もちろん、親としてのある程度の資質や責任なども必要ではありますが、基本的に親も子育ての中で成長していくという認識で、もっと特別養子縁組の成立を増やそうとすべきでしょう。

 一方、議員が動く「選挙」という面から考えると、「養子縁組」は当事者が非常に少ないテーマです。

 保育園や老人ホームなどは直接関係する立場の人が一定数いるため、対策を訴えることが比較的票につながりやすいでしょう。

 一方、養子縁組となると、「自分に直接関係はない」「自分の生活に影響しない」と捉える人が多いのでなかなか票になりにくく、議員にとっても優先順位が低くなります。だからと言って何もしないなら、少子高齢化問題は深刻になる一方ですから、私たちが声を上げていくことが大切です。

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『インターネット赤ちゃんポストが日本を救う』
著者:阪口 源太(著)えらいてんちょう(著)にしかわたく(イラスト)

 

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親の虐待や育児放棄を理由に国で擁護している約4万5000人の児童のうち、現在約7割が児童養護施設で暮らしています。国連の指針によると児童の成育には家庭が不可欠であり、欧米では児童養護施設への入所よりも養子縁組が主流を占めています。

本書ではNPOとしてインターネット赤ちゃんポストを運営し、子どもの幸せを第一に考えた養子縁組を支援してきた著者が国の制度である特別養子縁組を解説。実親との親子関係を解消し、養親の元で新たな成育環境を獲得することができる特別養子縁組の有効性を、マンガと文章のミックスで検証していきます。

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阪口 源太

さかぐち げんた

NPO法人全国おやこ福祉支援センター代表理事

1976年福井県生まれ。NPO法人全国おやこ福祉支援センター代表理事。自ら創業したIT会社を売却後、東日本大震災をきっかけに社会起業家に転身し、NPOを設立。大阪を拠点として、特別養子縁組のサポートに携わる。著書に「産んでくれたら200万円 -特別養子縁組の真実-」(Kindle版)がある。


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  • 阪口 源太
  • 2019.08.02