あることに気が付かなければ『水曜どうでしょう』はなかった!?
~名物カメラマンが「ひとり」に向き合った出来事~
今自分が見ている視点から離れてみる
今自分が見ている視点から離れてみる、ということは悩みを解決するヒントになります。例えばね、僕の実家はお寺で、物心ついた頃から、広い境内が僕の遊び場でもありましたから、僕は外へ出ていく必要がなかった。僕は人見知りなので、いつもひとりで遊んでいたし、ひとり遊びが寂しくなかったんです。
それに、そんな僕も、境内に入ってくる知らない大人に会うのは、なぜだか平気でした。それは向こうが僕のことを知ってくれていると思えて安心できるからでしょうね。
でも、境内を出て門の外に出ていこうとすると、なぜだかドキドキして。
その気質はきっと今も変わらないんでしょうね。今だって、できるなら知らない人には会いたくない、なんて思う。そんなテレビディレクターはいませんよ、ふつう。
でもね、「水曜どうでしょう」っていう番組にたどり着いたのは、結局、人との出会いがあったからです。
人との出会いは必要ですよ。というか、人生の意味って出会いしかないでしょう。人の輪に入っていくのは億劫だなぁって今も思いながらも、でも、人と出会わないことには幸福にはなれないということも同時に知っているわけでね。そこは長いこと生きてきた経験から思うことですよね。
「じゃあどうするんだ! 人見知りのオレ」って考えていたら、あるとき「あ、そうだ。自分の境内を広げていけばいいじゃん、世界をオレの境内にしてしまえばいいじゃん」って、思いついた。
閉じた自分の世界から「出る」のではなく、自分の居場所を「広げる」という考え方に変えました。自分を取り巻く状況は何も変わらないのに、でも「境内を広げていけばいいんだ」っていう視点の切り替えだけで、僕は、とても納得がいったんです。その納得は「オレのままで生きていける」んだっていう安心感だったと思います。
視点を変えれば、自分の状況は何も変わらないのに勝手にワクワクしていくんです。そのワクワクは「オレのままで生きていける」んだって信じられるからだと思います。自分が生きてる世界を読み解く視点は、ひとつじゃなかったってことです。
今のままの自分とつながりたいと思ってくれる人が、この世界のどこかに本当にいるんです。生きていれば、いつかその人に出会えるんです。そんな人がいつか自分の前に現れるのが人生だと思うんです。
だから早計に答えを出してひとりで絶望へと向かってしまうのは、どう考えても損だなと、今は思います。
嬉野雅道(うれしの・まさみち)
1959年生まれ。佐賀県出身。『水曜どうでしょう』カメラ担当ディレクター(HTB 北海道テレビ放送)。大泉洋主演ドラマ「歓喜の歌」ではプロデューサーを務める。安田顕主演ドラマ『ミエルヒ』では企画、プロデュースを担当。同ドラマはギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、文化庁芸術祭賞優秀賞など多くの賞を受賞した。2019年3月道内放送開始のHTB開局50周年ドラマ『チャンネルはそのまま!』ではプロデューサーを務めている。愛称は「うれしー」。著書に『ひらあやまり』、『ぬかよろこび』(KADOKAWA)、藤村忠寿との共著に『仕事論』(総合法令出版)など。最近はnoteで月刊マガジン『Wednesday Style』をはじめたり、ユーチューバーになったりと、活動の場を広げている。最新情報は、各種SNSをご確認ください。
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『生きづらさを抱えるきみへ』
著者:withnews編集部
2014年に朝日新聞社がスタートしたニュースサイト「withnews」内の1コーナーが「#withyou」です。この#withyouは2018年4月に始まった「生きづらさを抱える10代」に向けた企画で、「いじめ」や「不登校」、「DV」などを経験したことのある著名人(タレント、ミュージシャン、YouTuber、クリエイター等)が自らの体験談をサイトに掲載したものです。その体験談をひとつにまとめたのが本書。新生活が始まる中、「学校に行きたくない」「死にたい」といった悩みを抱え苦しむ人に、著名人たちが「自分も学校にいかなかった」「自分も不登校生活をしていたけど、今はしっかりと生活できている」「学校に行くだけがすべてじゃない」「好きなことをずっとやり続けていれば大人になっても暮らしていける」といった“安心できる”提案をしています。学校や友達付き合いに悩んでいる人に“学校に行きたくなければ行かなくても全然大丈夫”“今の時代、生きていく道はたくさんある。自ら死を選ばないで”という輪を広げていくことをいちばんの目的とした一冊です。