日本では養子を出す人は貴重な存在 ~実親が安心して養子を送り出せる環境を~
「社会的養護」が必要とされる子どもたちの実情
いわゆる「恵まれていない」とされる、「社会的養護」が必要とされる子どもはたくさんいて、それもなにかしらの事情で乳児院や児童養護施設などに入所できないことがあります。
(『インターネット赤ちゃんポストが日本を救う』著:阪口源太、えらいてんちょう)
■日本では養子を出す人は貴重な存在
いわゆる「恵まれていない」とされる、「社会的養護」が必要とされる子どもはたくさんいて、そのうちの7割程度が乳児院や児童養護施設などに入所しています。そして日本では養子という選択はまだまだマイナーであり、それが世界的にみても低い割合である。
日本では、平成28年の児童福祉法の改正により、原則、子どもは家庭での養育が推進されることになりました。それに伴い日本財団が行った調査によれば「潜在的な里親候補者」つまり里親を希望し、機会や制度が整えば養子を取りたいと考える家庭が約100万世帯もいると推定されています。しかしそれにもかかわらず特別養子縁組の成立件数は、同じく平成28年で495人と、子どもの人数、里親希望者の人数に対して圧倒的に足りていません。
多くの希望者が「待機里親」の状況に置かれ、さらにこれだけの潜在的な里親候補者が存在するのですから、これは受け入れ側の不足ではありません。むしろ大きな障害になっているのは「養子に出すと決断する実親が極めて少ない」という事実です。
実親の「育てたい」という意思はもちろん優先されるべきです。しかし、虐待やネグレクトなどが社会問題となっている状況からは、すべての実親が育て続ける意思を持っているわけではないと想定できます。しかし依然として、社会的養護が必要な子どもの大勢が施設へ入所している現状は、「特別養子縁組」という制度の認知がまだまだ不十分であること、そして実親の親権が強すぎることに由来すると考えられます。
■法的な部分では追い風が吹いている
親権に関しては、大きく分けてふたつの障壁があります。ひとつは「法律上の親権の強さ」、そしてもうひとつは「子どもは実親が育てるべきだ」という本人および社会の認識です。
法律上の親権の強さに関しては、すでに国も見直しを始めました。
今年の6月に、特別養子縁組が可能な年齢の上限引き上げと、縁組への実親の同意撤回を制限した改正民法が成立しました。
昭和62年の民法改正により制定された特別養子縁組の制度では、「縁組が可能な年齢の上限は原則満6歳まで」とされていました。それが今回の見直しでは14歳に引き上げられることが決まりました。
これまでは、たとえば実親が行方不明になっていたり、養子に出すことを決心するのに時間を要したなどの理由で、ある程度の期間を経た後に養子縁組が決まっても、その時6歳を越えてしまっていて縁組できないことがありましたが、現在の検討内容が実現したことによりこのような事例は減っていくと考えられます。
また現行の法律では、養子縁組を希望してから決定までに大変な時間がかかります。
まず6カ月間の試験養育期間が設けられ、その間に里親を希望する夫婦の適格性や、子どもとの相性などが診断されることになっています。ここで問題ないと判断された後に家庭裁判所に申し立てを行うのですが、今度はこの審判が下るまで最短で約2カ月かかります。
そして、この8カ月以上の期間、実親はいつでも縁組の意思を撤回できるのです。
8カ月間愛情をそそいで一生懸命育てた末に縁組不可とされた里親希望者のショックは大きいでしょうし、幼くして当事者になる子どもにとっても良い影響はないでしょう。
それが今回の法改正にあたっては、家庭裁判所の手続きを2段階に分けることが決定しています。1段階目は、「実親が育てることができるかどうかを判断する段階」として、児童相談所長が申し立てを行えるようになり、さらに実親は同意してから2週間が経過した後は撤回できないことになります。そして2段階目は「養親の適格性だけを対象にして判断を行う段階」になり、ここでは実親は関与しないことになりました。
ちなみに他の先進諸国では、養育を開始した養親の権利がもっと保障されており、実親といえども、養子縁組を前提にいったん子どもを預けた以上は簡単に撤回できない仕組みになっています。それと比較するとこれまで日本では、実親の権利が必要以上に強かったことがおわかりいただけると思います。
特別養子縁組の国内での成立件数は長期的に見れば増加の傾向にありますが、まだまだ多くはありません。
その中で見逃せないのは、縁組の話が進みながらも断念したケースが年間数十件存在していることです。ですから今回の法改正は、「話を進めている途中で子どもの年齢が6歳を超えてしまった」「話を進めている途中で実親が意思を翻した」などの理由でこれまでなら縁組不成立となっていた状況に対して、有効に働くと期待されます。
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『インターネット赤ちゃんポストが日本を救う』
著者:阪口 源太(著)えらいてんちょう(著)にしかわたく(イラスト)
親の虐待や育児放棄を理由に国で擁護している約4万5000人の児童のうち、現在約7割が児童養護施設で暮らしています。国連の指針によると児童の成育には家庭が不可欠であり、欧米では児童養護施設への入所よりも養子縁組が主流を占めています。
本書ではNPOとしてインターネット赤ちゃんポストを運営し、子どもの幸せを第一に考えた養子縁組を支援してきた著者が国の制度である特別養子縁組を解説。実親との親子関係を解消し、養親の元で新たな成育環境を獲得することができる特別養子縁組の有効性を、マンガと文章のミックスで検証していきます。