イチローが語った「練習する意味」
常識を覆すイチローの心理、発想法に夢を叶えるヒントあり!
2019年9月14日、シアトル・マリナーズは、球団に貢献し、大きな功績を残した人物に贈られる『フランチャイズ・アチーブメント賞』の授賞式を行い、会長付き特別補佐兼インストラクターを務めるイチローが表彰された。
彼は約5分間のスピーチを行い、冒頭では菊池雄星投手に「今夜は泣くなよ」とジョークを飛ばし、「私が知っている最も素晴らしい選手たちと共に、または、そのような選手たちを相手にプレーできたことは、大きな誇りです」と、メジャーへの敬意を表した。また、米経済誌『フォーブス』は、「彼ほどプレーする“準備”ができていた選手を、今後我々は2度と目にすることはないかもしれない。彼は有資格初年度で殿堂入りするだろう」と絶賛した。
イチローのキャリア成績は、日本のプロ野球で3619打数1278安打、打率3割5分3厘、メジャーで9934打数3089安打、打率3割1分1厘。それでは、なぜ彼はこのような偉大な記録を達成することができたのだろう?
私は、自ら収集した膨大な彼のコメントの中から大好きな100の言葉をピックアップして、彼がこの偉大な記録をうち立てた要因について、それらの言葉をさまざまな角度から読み解いてみた。
多くの人々が、「イチローは類稀なる野球の才能があったから、偉大なメジャーリーガーになり得た」と考えている。しかし、事実は、「半分は正解であるが、半分は不正解」である。
もちろん、彼に野球の才能がなかったら、プロ野球選手はおろか、到底メジャーリーガーには、なり得ない。しかし、才能に恵まれただけでメジャーリーガーになれるほど、この世の中は甘くない。何よりも、血の滲むような鍛練があったから、はじめて彼の野球の才能が開花したのだ。
21世紀という時代は、最も得意な分野に人生という貴重な資源をつぎ込んだ人間だけが成功を収めることができる。私たちには、複数の仕事で一流の仲間入りができるほどの人生の時間は与えられていない。
欧米にはこんな諺(ことわざ)がある。
「豚に歌を教えようとするな。時間の無駄であり、豚にとっても迷惑だ」
あなたにとって最も自信のある得意技は何だろう。その才能を活かす仕事のニーズは存在するだろうか? もしもそれが仕事として成り立たないなら趣味で楽しめばよい。
イチローがそうであったように、自分の得意技を磨いてくれるのは弱肉強食の競争社会だ。その中で切磋琢磨して、目の前の仕事で、キャリアによって磨き上げた自分の得意技を遺憾なく発揮しよう。この世の中に内容の面白い仕事なんてほとんど存在しない。もっと言えば、内容の面白い仕事を探している人間は、決して一流にはなれない。
他人がやっている面白そうな仕事も、いざ自分が引き受けてみると、面白くない要素がどんどん現れてくる。現役時代のイチローでさえも、「バットを振る作業は全然面白くない」と、語っていた。
それでは、その面白くないバットを振るという単純作業を、イチローはなぜあれほど丁寧に心を込めて長時間やり続けることができたのか?
あるとき、イチローは「練習の意味」についてこう語っている。
「仕事の責任のために練習をしているわけじゃないんですよ。野球が好きだから練習しているんです。それだけです」
これはあくまでも私の推測に過ぎないが、一流の投手の投げるボールをヒットにするという快感が彼にこの作業を自発的に行わせていたと、私は考えている。
これからの時代は、AI(人工知能)の進化が急速に進み、数多くの仕事はロボットやコンピュータによってとって換わる。結果仕事の専門化が急速に進み、AIで置き換えの利かない人材が登用される時代になる。つまり、代役の利かない、その作業の名人芸を身に付けた人間しか生き残れないのだ。
現役時代のイチローがそうであったように、日常生活の中で、あなたの最大の武器を磨く時間をたっぷり確保して、努力を積み重ねよう。それだけでなく、なんとしても自分の最大の得意技を仕事に反映させて、仕事でヒットを放つことを快感にしよう。そうすれば、どんな仕事も楽しくなり、あなたもイチローのような、目の前の仕事の達人に登り詰めることができるようになる。
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児玉 光雄
他人との比較ではなく、常に自分が定めた目標を基準として、偉大な記録を残してきたイチロー選手。「完璧主義」ではなく、あくまで自己ベストに徹底したその「最善主義」を、引退までの100の言葉から紐解く。巻末付録として、2019年3月21日に行われた引退会見全文も収録。スポーツ心理学のエキスパートである著者による、イチロー本の決定版。