メンタリストDaiGOを批判する人たちの「無意識の差別意識」【仲正昌樹】
メンタリストDaiGoの問題発言が今もなお炎上が止まらない。「僕は生活保護の人たちに、お金を払うために税金を納めてるんじゃない。生活保護の人に食わせる金があるんだったら猫を救ってほしい」「自分にとって必要のない命は、僕にとって軽い。だからホームレスの命はどうでもいい」といった発言だ。それに対して「知識がないからだ」とか「優生思想に基づく発言だ」という批判がある。本当にそうだろうか? 近刊『人はなぜ「自由」から逃走するのか:エーリヒ・フロムとともに考える』(KKベストセラーズ)がロングセラー中の仲正昌樹氏に、この曖昧になっている批判の論点を整理してもらい、この騒動の問題の本質を捉えなおしてもらった。
八月七日、メンタリストのDaiGo氏がYouTubeに投稿した動画の中で、「僕は生活保護の人たちに、お金を払うために税金を納めてるんじゃない。生活保護の人に食わせる金があるんだったら猫を救ってほしい」「自分にとって必要のない命は、僕にとって軽い。だからホームレスの命はどうでもいい」などと発言したことが、ネットを中心に大きな話題になった。
この発言はかなり異様なものであり、非難の声が拡がるのは当然だ。しかし、彼の発言に対し、「これは相模原の精神障碍者殺傷事件に通じる優生思想の現われであり、日本に優生思想が蔓延している危険な徴候だ」、といった、すぐに思いつきそうな紋切り型を当てはめて、分析した気になり、説教しようとする啓蒙的知識人の姿勢も、かなりズレているように思える。
本稿では、勘違いの相乗によって、見えにくくなっている論点について考えてみたい。
まず、比較的分かりやすい論点として、DaiGo発言を批判する人たちの議論の“前提”について。メンタリストは公人なのか。
批判の対象になっている彼の発言は、差別意識をむき出しにした低レベルのものだが、他人のことを、無能とか、頭に〇〇が湧いているんじゃない、社会の厄介者、死ねばいい、などと罵倒して面白がっているツイッタラーやヤフコメ民、5ちゃんねらーは腐るほどいる。そういう発言には、ある程度名前が知られた個人を名指しするものもあるが、特定の業界やウヨク、サヨク、フェミ、創価学会など思想や運動をターゲットにするものや、老人、在日(韓国人)とか、精神障碍者、生活保護受給者などに対する差別表現を使い、煽っているようにさえ見えるものもある。恐らく、DaiGo発言をめぐる炎上に加わった人の中にも、こういう暴言を口にしている人が少なからずいたはずである。彼らとDaiGo氏はどう違うのか。
罪がない者が石を投げよ、と言いたいのではない。彼の差別発言を“重大な問題”と見て、騒いだ人たちに、匿名・無名のツイッタラーやYouTuberと、DaiGo氏のどこが違うのか、明確な基準があったのかが問題である。
恐らく、本当に無名のYouTuberであれば、そもそもほとんど注目されなかったろうし、何かのきっかけで注目されたとしても、「不適切な発言だが、自分にとってどうでもいいとわがままを述べているだけで、殺していいとか保護を打ち切れと言っているわけではない。無名な人間のバカな発言にいちいち目くじらを立てていたら、みんな萎縮して、ネット上の表現の自由がなくなる」、と擁護する声もそれなりに上がったろう。
YouTubeのガイドラインでは、人種、民族、宗教、障がいなどについては、「個人や集団に対する暴力や差別を助長するコンテンツは削除されます」とされているが、ホームレスや生活保護者など、収入や住居のことは特に触れられていない。仮に具体的に例示されていなくても、収入や住居に関するヘイトスピーチも削除の対象当たるとYouTubeの運営会社が考えているとしても、DaiGo氏の発言が、「暴力や差別を助長した」とまで言えるか微妙である。
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