メンタリストDaiGOを批判する人たちの「無意識の差別意識」【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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メンタリストDaiGOを批判する人たちの「無意識の差別意識」【仲正昌樹】

■DaiGoはぜ厳しく責められなければ鳴らなかったのか?

 

  “一般人”であれば大目に見てもらえたかもしれない不適切発言に関して、DaiGo氏は厳しく責められた。それを社会問題扱いするメディアもあった。彼は、広い意味での「公人」なのだろうか。日本のメディアやネットでは、公職に就いている人ではなくても、その身内や芸能人、著名なアーティストや評論家、学者などを、「公人」に準じる存在と見なし、一般人より高いモラルや遵法精神を要求することがあるが、どういう人がそれに当たるのだろうか。

 知名度が一つの指標になっていそうだが、それもあやふやだ。どうやって測るのか。DaiGo氏は一時期、メンタリストとしてもてはやされ、週に何度もTVに見かけたが、現在は――弟の方が有名になったので、完全に忘れられているということはなさそうだが――そうでもない。現在はYouTubeの登録者が250万人、Twitterのフォロワーが76万人ということで、影響力が「大きい」ということになるのだろうが、彼より登録者数が多いYouTuberは日本に何十人もいるし、どれくらいの登録者、フォロワーがいれば、「公人」格になるのだろうか。DaiGo氏より登録者が多くても、チャンネル登録者以外にはほとんど知られていない人もいる。恐らく、“問題発言”をして炎上騒動が起こる人が、事後的に、準公人として認定されることになるのだろう。

 別に、それほど大物ではないのだから勘弁してやったらいい、と言いたいのではない。商売としてYouTubeチャンネルを開設して有名になっているのだから、不適切発言をして叩かれるリスクは、本人が覚悟すべきである。DaiGo発言を重大な社会問題だと言っている人たちが、どういう立場の人であれば発言に際して一般の無名な人より高いモラルと注意力が必要と考えているのか、ちゃんとした基準を持っているのかを問題にしているのである。

 ほぼ同じような内容の“問題発言”が、その人物についての何となくの印象で、「幼稚だけどそれほど問題視しなくてもいい発言」になったり、「差別を助長する可能性が極めて高く、看過しがたい発言」になったりするのは、言論の自由の観点からも差別対策の観点からも、危険である。

 そこに、「メンタリスト」というような、資格なのか技能なのか単なる自称なのかよく分からない肩書が絡んでくると、余計に危ない。事件後、彼のメンタリズムが科学とは言えないいかがわしいものだと批判する心理学の研究者のコメントも発表されている。彼がメンタリズムを科学に基づくものだとテレビ等で発言し、ネットで心理学の指南をしているのを目にすると、分野的にそれほど関係のない私でも結構不快だった。テレビが勝手に、「科学の専門家」を作り上げて、権威に仕立て上げるのは、研究者にとっては許しがたいことである――最近のコロナ関係番組では、そういう傾向がかなり強まっている。

 

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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  • 仲正 昌樹
  • 2020.08.25