本は「商品」である前に「アート」だった!
深く味わいたい「アール・デコ」高級挿絵本の世界(2)
「知の巨匠」フランス文学者・鹿島茂氏インタビュー(2)
Q——「アール・デコの挿絵本」の世界。ここからは、「アール・デコの挿絵本」の各パーツの特徴を見ながら、当時の挿絵本がどのようなものだったのかを紹介していきます。アール・デコの装飾本は、「函(はこ)」に入れて保存されることがあったそうですが、「函」はどのようなものだったのでしょうか?
鹿島・・・未綴じの本は、発行部数が300部以下の豪華挿絵本の場合、あまり多くはありませんが、「函入り」で世に出ることがあります。
その「函」の装飾はすごくあっさりした、無地ないしは模様だけのただの函のこともあれば、本の挿絵を担当したイラストレーターが提供したイラストをふんだんにあしらった、凝りに凝った函のこともあります。
後者の代表は、ジョルジュ・バルビエがイラストを描いた『ギルランド・デ・モワ(月々の花飾り)』です。これは、バルビエの代表作である『ビリチスの歌』を世に送り出したピエール・コラールが第一次世界大戦で戦死したため、助手をつとめていたジュール・メニアルがつくり出した「袖珍本(懐や袖のなかに入れて持ち運びできるくらいの小型の本)」形式の婦人向けの「暦本(アルマナ)」です。
Q——どれくらい発行されたのですか?
1917年から1921年まで年ごとに全部で5巻発行されました。アール・デコの挿絵本の中でも、最も美しい函の装飾で知られています。ただし、1917年に最初に出た函は緑の縦縞の地味なデザインです。それが、年を追うごとにデザイン性が増し、天地を除く、背、表、裏にバルビエの「ヴィニェット」(=活字とともに組み込んだイラストのこと)を配したタイトル・デザインがなされています。
しかし、アール・デコのものに限らずフランスの「函」は、総じて作りが日本の函のように頑丈にできていません。たいていは解体してしまっていたり、さもなければ修理が施されていて、完全な状態のものは極めてまれなのです。
なお、この「函」と、「表紙」および「表紙カバー(ジャケット)」の間に、「エテュイ」と呼ばれる「厚紙のカバ一」を入れる場合があります。たいていは函と同じデザインで統ーされ、そのエテュイには紐がついていて、函なしでも本棚に並べることができるようになっています。
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鹿島茂コレクション アール・デコの造本芸術 高級挿絵本の世界
日比谷図書文化館では10月24 日(木)〜12月23日(月)まで「アール・デコの造本芸術」展を開催中。20 世紀初頭、アール・デコ華やかなりし時代に、革新的なデザイン感覚を持ったイラストレーターと、高度な技術を持った印刷職人とのコラボレーションにより次々と産み出された高級挿絵本。それはまた、新鋭イラストレーターを起用し新しいモード・ジャーナリズムを見事に開花させた先見の明ある編集者の登場と、裕福なパトロンが同時代に存在するという、幸福なできごとにより生まれた芸術でもありました。
本展では、フランス文学者の鹿島茂氏が 30 年以上にわたって収集してきた膨大な数の個人コレクションの中から、バルビエ、マルティ、マルタン、ルパップによる挿絵本と、4 人がそれぞれに関わったファッション・プレート合わせて100 点あまりを紹介します。アール・デコの造本芸術の優美な世界をご堪能ください。
エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層
鹿島茂
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自らの力で道を切開いてきた男たちの人生から学ぶための一冊!