最大の敵は「忘却」である【適菜収】
【隔週連載】だから何度も言ったのに 第1回
■悪党は人々が忘却するのを待つ
批評家のエドワード・ワディ・サイードは、知識人の公的役割を「亡命者」「周辺的存在」「アウトサイダー」「アマチュア」「現状の攪乱者」「権力に対して真実を語ろうとする言葉の使い手」などと表現した。それは単なる「反権力」ではない。
《すなわち、オールターナティブな可能性を垣間みせる材源を徹底して探しまわり、埋もれた記録を発掘し、忘れられた(あるいは廃棄された)歴史を復活させねばならない》
《知識人の語ることは、総じて、聴衆を困惑させたり、聴衆の気持ちを逆なでしたり、さらには不快であったりすべきなのだ》
《わたしが使う意味でいう知識人とは、その根底において、けっして調停者でもなければコンセンサス形成者でもなく、批判的センスにすべてを賭ける人間である。つまり、安易な公式見解や既成の紋切型表現をこばむ人間であり、なかんずく権力の側にある者や伝統の側にある者が語ったり、おこなったりしていることを検証もなしに無条件に追認することに対し、どこまでも批判を投げかける人間である》
私は自分を「知識人」になぞらえる趣味はないが、記録し、繰り返し「リマインド」させることが重要だと思っている。
悪党は悪事の遂行が失敗しても、ひたすらほとぼりが冷めるのを待ち、世の中の人々が忘れた頃に、再び動き出す。過ちは何度も繰り返されるのだから、同じ批判を意識的に繰り返さなければならない。私はツイッターのbotでもこれをやっているが、われわれの社会にとって最大の敵は「忘却」なのである。
ということで、今回から「聴衆の気持ちを逆なで」するような連載を始めます。
文:適菜収
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