Scene.1 清志郎さんがやって来た!ヤァヤァヤァ♪
高円寺文庫センター物語①
高円寺の駅近くに出店してまだ数年の頃、この本屋を知ってもらうためにボクらはいろいろなイベントを仕掛けていた。
「けっこうさ、いろんな人たちにイベント来てもらったろ・・・この後どうしよう?」
「それはやっぱり清さまでしょ」と、りえ蔵。内山くん「よか!」
「おまえら無責任にバカ言うなよ、清志郎さんなんて無理に決まっているだろ」
「なんばい、店長はそんなかねぇ~。見損なったばい」
「わぁ、内山さぁん、その突っ込み違うわよ。店長いつも言ってるでしょ、さぁ先へ行こうって!」
朝方、送られてきた本や雑誌の荷解き検品も終わり、掃除と品出しがひと段落した。
みんなでカウンター内側にしゃがみ込んでの、これが高円寺文庫センターのミーティング。
日本一のサブカル書店なんて言われ始めたのにさ、ここってときに尻込みなのかぁとブーイングを受けてしまった。
店長のボク以外みんなバイトだけど、この二人とは、アドバイザーとしてなんでも言ってもらえる関係を作ってきた。
確かに、ボクらの本屋のコンセプトに沿って漫画家さんやミュージシャンのイベントを積み重ねてきて、次は? って考えるなら、清志郎さんで決まりだよな!
「うん、わかった。当たって砕けろだ! さぁ、先へ行こう」
決断したら迷わない。
清志郎さんが、雑誌「TV Bros.」に連載している『瀕死の双六問屋』が書籍化されると聞き、すかさずその出版もとの光進社に電話をかけた。
「高円寺文庫センターと申します」、そこそこに名が売れてきた本屋ではあっても、まだまだマイナーだから、石原さんという編集者が戸惑った様子が電話でも手に取るようにわかる。
ダメかなぁって思ったら、企画書を送ってくれますか、とのこと。そんなもん、書いたことないよ・・・・・・
内山くんとりえ蔵に伝えれば、「トイレでタバコ吸って! アイデア捻り出して!」
「うん、閃いた! 熱望書だよ熱望書、企画書なんて相手の土俵じゃムリだって」
ボクらの希望で実現させたいんだから、窓口になる相手の編集者を巻き込む作戦だよ。
忌野清志郎さんで、なんでイベントをしたいのかって想いのたけを熱くアッピールするしかないよな! これぞ熱望書、「どうだ、みんな!」
「よかねぇ、店長! 今夜は徹夜してでも書き上げんと。明日は休んでもよかよ」
「そうよ、いま手にしている『企画書の書き方』なんて本を見るんじゃなくて、ロックンロール!」
「ゴーフォーブローク。当たって砕けろか」
我が両腕のスタッフに、こう言われちゃやるしかない。
確かに、高円寺文庫センター自体がマニュアルにない本屋を創ろうとしていたのだから。『企画書の書き方』を参考になんて、ちゃんちゃらおかしい。それじゃ、石原さんを口説けるわけがない。
「清志郎さんが、来たよ!」
現実ってこんなシンプルなのか。それからの記憶は連続写真を見るようにフラッシュバックしてくる。
書棚の横からサッと現れた清志郎さんは、地味・ヘンドリックス! ステージ・メイクなしの姿はかえって、こちらの力みが抜けて助かった。
どんな挨拶と打ち合わせをしたのか、覚えていない。
とにかく、高円寺文庫センターのスペシャル・プレゼンツ「忌野清志郎握手会」のスタートだよ! イェイ♪