ひとりの決断とひとりの決心。ふたりの吹奏楽部員の涙と想い
~「全国初出場」をつかみ取るまでの軌跡~
小松市立高等学校吹奏楽部の大きなピンチ②
今回紹介するのは、福井県の武生商業高校が6年連続、石川県の小松明峰高校が2年連続で代表を占めていた北陸支部に、2019年は異変が起こった。彗星のごとく現れた初出場校・小松市立高等学校吹奏楽部が出場にいたるまで乗り越えた大きなピンチと苦渋の決断の物語。【後半編】(『新・吹部ノート 私たちの負けられない想い』より)
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■衝撃の部長交代劇
コムギやマユたちの1つ上の先輩が引退した後、残された2つの学年の間にはどことなくしっくりいかない雰囲気が漂っていた。
そんな中、各校の1、2年生だけで参加する新人戦が行われた。成績上位の学校は、3月に関東が中心になって開催される首都圏学校交歓演奏会に出場することができる。全国大会常連の強豪高校も登場する、次年度を占う大会だ。
小松市立も2017年、2018 年と首都圏学校交歓演奏会に出場していたが、2019 年は出場権を逃した。まさかの事態だった。
このことがきっかけで、一気に部内の空気が悪くなった。
最大の問題は、コムギやマユたち当時の2年生と1年生の対立だ。吹奏楽部は6月に開催する定期演奏会に向けて準備を始めたが、各学年がお互いに対する不満を漏らすようになった。このままでは良くないとミーティングをしたとこ
ろ、1年生から思ってもみない激しい突き上げがあった。しかし、マユを含めた幹部はみな優しく穏やかな性格で、後輩たちに対して強く出ることができない。
そのときは表面上は「今後はお互いに協力してやっていこう」ということでまとまったが、不満はくすぶり続けたままだった。
「最後の1年なのに、どうしよ……」
コムギは苛立ちと焦りを感じていた。
4月が来て部員たちは進級し、1年生も入ってきた。定期演奏会も2カ月後に迫っている。部内は慌ただしくなり、3年生と2年生のぶつかり合いが再び表面化してきた。しかし、このときもマユたちには打つ手がなかった。
実は、マユ自身も先生に「部長をやらせてもらいます!」と力強く宣言したものの、ずっと不安を抱えていた。演奏では思い切りがいいが、人間関係になるとつい優柔不断になってしまう。リーダーとして指示を出さなければいけ
ないときにはっきりせず、みんなを戸惑わせてしまうことも少なくなかった。
「今の幹部ってどうなん……?」
ついにそんな声が部員の中から漏れてくるようになった。
一度、3年生だけでミーティングを行い、幹部は「今後は自分たちの行動を変えていきたい」と語った。しかし、人の性格はそう簡単に変わるものではなく、3年生と2年生の良くない関係も変わらなかった。
定期演奏会の前日、ついに業を煮やした安嶋先生が3年生に向かって言った。
「今、部内がこんなになってるのは、2年じゃなく、お前らが悪いせいだ!」
そう言われて、コムギも気づいた。
「先生の言うとおりや。今までずっと後輩のせいにしてきたけど、私らに問題があるんや」
定期演奏会が終わったら、この問題に決着をつけよう――コムギは思った。いや、3年生のほとんどがそう思っていた。
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『新・吹部ノート 私たちの負けられない想い』
オザワ部長 (著)
「吹奏楽の甲子園」と呼ばれる全日本吹奏楽コンクールをめざす、ひたむきな高校生の青春を追いかけたノンフィクション・ドキュメント第4弾。 今回、実力があるのにコンクールでは涙を飲んできた、そういう高校(吹奏楽部)を前面に押していきます。常連校のようなある意味“でき上がった"子たちではなく、実力はあるのにまだ出し切れていない、その分、どうしてもコンクールに出場したいという闘志がむきだしの熱い想い、狂おしいほどの悩み、そして大きな壁を乗り越えてゆく姿を魅せていきます。 【掲載校】 〇磐城高校(東北) 〇明誠学院高校(中国) 〇伊奈学園総合高校(関東) 〇活水高校(九州) 〇小松市立高校(北陸) 〇八王子高校(関東) 〇東海大仰星高校(関西)