米国VSイラン――両国間のサイバー攻撃が激化するこれだけの理由
日本のサイバーセキュリティの現在地②
■米国の対イランサイバー攻撃作戦
「ニトロ・ゼウス」とは?
それだけではない。イランは日本や米国を含む世界各地の大学や民間企業をサイバー攻撃で襲っており、企業の知的財産や内部情報を盗むなど行っている。ここで忘れてはいけないのが、「侵入された」という事実である。
サイバー攻撃の攻撃手法は、なにを目的とするにしろ、まずは標的のパソコンやネットワークにマルウェア(不正プログラム)を埋め込むみ、侵入することから始まる。それさえできてしまえば、あとは情報を盗むことも、標的のデータをすべて消去してしまうことも、不正操作でさらなる破壊を引き起こすことも可能になるということだ。
イランではサイバー部隊の強化に力を入れてきた経緯があり、サイバー攻撃を担う人員は10万人を超えるとも言われている。米国のみならず、親米の敵対国などを狙った攻撃は明日にでも起こりかねない状況だ。
実のところ、すでに対米の攻撃は始まっている。ミネソタ州ミネアポリスではイラン革命防衛隊の関連ハッカーらのサイバー攻撃によって公共施設の公式サイトにソレイマニ司令官の顔写真を表示する改竄が行われたり、そのほかでも政府系サイトが親イランのメッセージに改竄されるケースも確認されている。
米国の専門家らによれば、これらの攻撃はお遊び程度であり、本格的な攻撃はこれから起きる可能性があると指摘している。そうした攻撃には、イランが支援するレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラや、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスのサイバーチームも協力する可能性があると言われている。
もちろん米国も黙ってはいないだろう。
もともと米国は、イランに対してサイバー攻撃を行ってきた歴史がある。いくつか有名な例を挙げると、2009年には「オリンピック・ゲームス作戦」(通称スタックスネット)という攻撃をイランのナタンズ核燃料施設に行い、サイバー攻撃で遠心分離機を不正操作して破壊している。
またその後も、米軍がイラン有事の際に実施する予定で作戦を準備していたイランへのサイバー攻撃作戦「ニトロ・ゼウス」という計画も明らかになっている。ニトロ・ゼウスは、米軍がイランの領空レーダーや通信システム、電力網を無能化させる攻撃で、数多くの米軍関係者が関与していた重要作戦だった。この作戦は2015年のイラン核合意が達成されたことによって中止になった。だが今、再びイラン核合意前の状況に逆戻りしていることを考えれば、米軍が再びサイバー空間での作戦を画策しているのは間違いない。
米国でサイバー攻撃を担うのは、米サイバー軍と、世界有数のハッカーを擁するNSA(米国家安全保障局)である。そして現在、米国の攻撃的サイバー工作を指揮するのは、2018年4月にサイバー軍の司令官に就任した日系3世のポール・ナカソネ陸軍中将だ。ナカソネはサイバー軍の司令官であると同時に、NSAの長官でもある。そんなナカソネは陸軍時代にニトロ・ゼウスにも深く関わっており、対イランサイバー攻撃には精通している。その事実もまた、米国がイランに対して効果的にサイバー攻撃を行うだろうと見られている所以だ。
こうしたケースだけを振り返っても、トランプ政権になってから現場により裁量が与えられるようになったサイバー攻撃の分野で、対イラン攻撃が行われるのは間違いないはずだ。
現状、イラン情勢で全面衝突は回避されたように見えているが、私たちの目には直接触れないサイバー空間で米国対イランの攻防が激化することになりそうだ。
(了)
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『サイバー戦争の今』
山田 敏弘 (著)
“北朝鮮のミサイルはアメリカがウイルスを使って落としていた”
“マルウェアに感染した高速増殖炉もんじゅが遠隔操作で破壊されたら”
“京アニを襲撃した青葉容疑者もダークウェブ「トーア」を使っていた”
IoT化が進むなか、すべての電子機器が一斉に乗っ取られるリスクも大いに高まっている。今年10月には、危機感を募らせた日本政府は日本のインフラがサイバー攻撃にあった場合、その報告を義務づける法案を採択(全然報道されていないが)。
事実、高速増殖炉もんじゅがマルウェアに感染していたこともあり、日本も決して対岸の火事ではない。本書はこれら現在のサイバー戦争のフロントラインを追い、詳しく解説。そのうえで日本はどうするべきなのかを問うものである。