地震発生直後:3842人の意外な死因「なぜ、圧死(即死)はわずか8%だったのか」【阪神・淡路大震災25年目の真実❷】
あなたと愛する人の命を守るためのメッセージ②
◆「瓦礫の下からの声」の謎
検案書のリストを分析すると、窒息が原因で亡くなった人が最も多い地域が分かった。 神戸市の東部、古くからの住宅街・神戸市東灘区だ。
北は六甲山、南は大阪湾に挟まれた東灘区は、淡路島北部の震源から出た2つの地震波がちょうどぶつかった場所だったと考えられ(神戸市編「阪神・淡路大震災発生のメカニズム」 『阪神・淡路大震災の概要及び復興』など)、とくに激しい揺れを観測した。そのため建物が被害を受けた割合が神戸市で最も多く、全壊1万3687件、半壊5538件にのぼった。その東灘区で当時の状況を取材すると、いろんな人から同じような証言が寄せられた。
地震発生直後、倒壊した家屋の下から「声がした」というのだ。 現在、書道教室を主宰するNさん(女性)も「瓦礫の下の声」を記憶している一人だ。
父と、母を震災で亡くしたNさんだが、仏壇の中に大切にしまっている両親の検案書の「死亡の原因」欄はともに「窒息死」と書かれている。検案書を医師から受け取って、最初に窒息の文字を見た時に感じた違和感を、Nさんは今も覚えている。
「ええっ、と思いましたね。地震で窒息ってどういうことなのかな、と戸惑いました。両親は喉を絞められたわけでも、口を塞がれたわけでもない、きれいな死に顔でしたから」
ただ、思い当たることもないわけではなかった。倒壊した築50年の実家の下敷きになった両親だが、Nさんが10分も経たず駆けつけた時には、まだ瓦礫の下にいて、近所の人たちが必死に助け出そうとしてくれていた。Nさんはそれを見つつも、同じ町内で妹夫婦と二人の子どもが生き埋めになっていると聞き、そちらへ駆けつけた。まさに極限状態だった。妹の一家4人は2時間ほどで全員が助け出された。その間に、瓦礫の下から運び出された両親は、すでに息絶えていた。ようやく駆けつけたNさんは両親の遺体と対面することになったが、二人の遺体には目立った外傷や大量の出血をしたような痕はなかった。
その時、Nさんは近所の人から思いがけない両親の最期の様子を聞かされた。母の声が瓦礫の下から聞こえていたというのだ。
「お父さんの声は一度も聞こえなかったけど、お母さんの『助けてー』、『お父さん、助けてー』という声は瓦礫の外まで届いたで、と教えてくれました。どれくらいの時間かはっきり分からないけど、地震の直後は確かに聞こえたんだそうです」
少なくとも母親は、しばらくの間、瓦礫の下で生存していたことになる。Nさんにとって、それは辛い事実だった。
「母は日頃から『長患いで子どもに迷惑かけないように、私はころっと死にたいねん』とずっと言ってました。本人の気持ちを考えると、どうしてこういうことになったんだと、 納得しないまま亡くなっていった気がします。寒くて、冷たくて、痛いと思いながら、瓦礫の下で旅立って行ったのかなと考えると、今でもしんどい気持ちになります」
(『震度7 何が生死を分けたのか』より構成)
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KEYWORDS:
震度7 何が生死を分けたのか
NHKスペシャル取材班
都市直下地震で人はどのように命は奪われるのか
第42回放送文化基金奨励賞受賞
大反響となった「NHKスペシャル」待望の書籍化!
本書では、新たに追加取材を行い、番組で放送できなかった内容までフォロー
来るべき都市直下地震を見すえ
今、命を守るために何をすべきなのか
その対策を、提示します。
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「本当にこんなものが残っていたとは……」(本文より)
阪神・淡路大震災 21年目に初めて明らかにされた
当日亡くなられた5036人の「死体検案書」のデータ。
死因、死亡時刻を詳細に記したデータが物語る「意外な」事実。
一人ひとりがどのように死に至ったのか。
「震災死」の実態をNHKの最新技術(データビジュアライゼーション)で
完全「可視化」(巻頭カラー口絵8P)
震災死の経過を「3つの時間帯」で検証した。
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【3つの時間帯とその「意外な事実」】
21年間「埋もれていた」5036人の死因、死亡時刻を詳細に記した検案書データ。
そこには地震発生から「3つの時間」経過とともに
犠牲者の実像、その「意外な事実」が明らかにされた。
1 地震発生直後:当日亡くなられた76%(=3842人死亡)の死因
なぜ、圧死(即死)はわずか8%だったのか!
2 地震発生1時間後以降:85人の命を奪った「謎の火災」の原因
なぜ、92件の火災が遅れて発生したのか!
3 地震発生5時間後以降:助けを待った477人が死亡した理由
なぜ、救助隊は交通渋滞に阻まれたのか!
本書はこの「3つの時間帯」で起こった意外な事実を科学的に検証。
浮き上がった「命を守るための課題」と「救えた命」の可能性を探るとともに
首都直下地震など、次の大地震に向けた対策を提示する。
【目次】
カラー口絵 序 章 5036人の死 そこには救えた命があった
第1章 命を奪う「窒息死」の真相 自身発生直後
第2章 ある大学生の死 繰り返される悲劇・進まない耐震化
コラム1 被害のないマンションでも死者が 現代への警告
第3章 時間差火災の脅威 地震発生から1時間後以降
第4章 データが解き明かす通電火災21年目の真実
第5章 通電火災に備えよ
コラム2 〝命の記録〟を見つめる 新たな分析手法と防災
第6章 渋滞に奪われた命 地震発生から5時間後以降
第7章 いまだ進まない根本的対策