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【後退する教員の働き方改革】まだまだ増える、教員の専門外職務

第95回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-


 世間とは真逆の動きをしているのが、教員の働き方改革だ。しかもそれは、コロナ禍によって加速している。増え続ける業務量に足りない教員の数、その中には全く専門外の業務までが教員の仕事とりつつあるのである。


■コロナ感染の有無を検査する教員

「教員の働き方改革」という言葉は適切な表現ではないが、ウンザリするほど語られてきている。しかし、これまたウンザリするほど前進していないのも事実である。

 働き方改革、つまり「働き過ぎ」を是正するには、教員の人数を大幅に増やすか仕事量を大幅に減らすしかない。少人数学級や小学校での教科担任制などの動きのなかで、教員の定数は増やされる傾向には向かっている。ただし、充分な人数にはほど遠い。
 仕事の量はどうかといえば、こちらも前進と呼べる状況ではない。むしろ、後退と呼んだほうがいいくらいの現状である。

 新型コロナウイルス(新型コロナ)の感染が児童生徒にも広がりつつあるなか、8月20日に菅義偉首相は、感染の有無を調べるための「抗原簡易キット」を幼稚園と小中学校に配布する方針を決めて発表している。
 児童生徒が登校後に体調不良をきたし、保護者が児童に医療機関を受診させる際に、簡易キットで新型コロナの感染を確認することで対応をスムーズにするためだと、文科省は説明している。

 さらに簡易キットについて文科省は、「小学校及び中学校等へ配布するキットは、教職員が使用することを基本的に想定しております」と伝えている。
 当然ではあるが、こういう簡易キットの取り扱うについて教職員は専門家ではない。専門家ではない教職員が検査を行うことについては、日本小児科学会と日本小児科医会からも疑問が呈されている。不慣れな検査をやることで教職員のストレスが大きくなる、といった理由からである。

 教職員の負担ということでは、「新たな仕事が増えた」こともある。簡易キットのような検査は、これまで学校現場でやってきたものではないし、教職員がやってきたわけではない。
 新型コロナが現状を受けて、政府が学校現場での簡易キットを唐突に決め、それを学校現場に押し付けてきたものである。簡易キットでの対応が必要と決めるのはいいが、素人である教員、しかもただでさえ多忙な教職員に押し付けるのは問題である。
 こうした姿勢は、簡易キットに限ったことではない。これまでも度々、問題が起きれば対応は学校現場に押し付けられてきている。

■校務分掌に「学校安全主任」?

 今年6月に千葉県八街市で歩いて下校途中の児童の列にトラックが突っ込み、男女5人が死傷すする悲惨な事故が起きた。この事故を受けて菅総理は、関係閣僚会議で通学路の総点検を指示している。子どもたちが通学する道路が安全かどうかの点検は、必要なことではある。
 問題は、その点検を誰がするかである。菅総理は、誰がやるかを明確にはしなかった。言うだけ言って、「あとは任せた」という姿勢である。
 児童生徒の安全が関係していることもあって、こういう場合のお鉢は教職員に回ってくる。実際、そうなった。

 交通安全の問題なのだから、国土交通省や警察が動いても何ら問題はないはずである。むしろ交通量などの調査なら、警察の専門ともいえる。それにも関わらず、教職員の仕事になってしまうのだ。
 そして9月2日の中央教育審議会初等中等教育分科会安全部会は、第3次学校安全推進計画の策定に向けた議論のなかで、座長の渡邉正樹・東京学芸大学教職大学院教授が「学校安全主任」を校務分掌上に位置づける提言を行った。
 校務を教職員が分担するのが校務分掌だが、責任を明確にするために「主任」という役職にしようというのだ。

 児童生徒の安全を守ることは、言うまでもなく重要なことである。そのために学校内に安全対策の責任者を置くことも、必要な措置ではある。しかし、本当に教職員が担う役割なのだろうか。教職員以外の人材、安全対策の専門家を雇って配置する方が効果的に思える。
 しかし、新しく人を雇うという話にはなぜか触れられない。そして、教職員の「新たな仕事」にされてしまう。

 教職員の校務分掌にすれば、そのために教職員の数を増やす必要もなければ、手当が付くわけでもないので、新たな予算が必要になることもない。簡単かつ安上がりで済むのだ。
 それでいて、「学校安全を守る」という大義名分に対して前向きな対処を行ったと立案者は胸を張ることができる。どこから予算を捻出するかといった余計なことに頭を悩ます必要はない。
 そのシワ寄せがいくのは、教職員である。こうやって、教職員の多忙化は解消するどころか、どんどん拍車がかかっている。

 働き方改革という言葉が踊るだけで、教職員が多忙から抜け出せないでいるのは、問題が起きると「教職員にやらせればいい」が前提の小手先の対策や対処策で満足している人たちの存在が大きいのかもしれない。

 

 

 

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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