害獣被害と害人被害。狩女子がヒトと動物のせめぎ合いを考える。 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

害獣被害と害人被害。狩女子がヒトと動物のせめぎ合いを考える。

【第17回】都内の美人営業マンが会社を辞めて茨城の奥地で狩女子になった件

【クマ、シカ、イノシシ……動物による人への被害】

 皆さんこんにちは! 茨城県でヨガのインストラクターの傍ら、新米猟師をしているNozomiです! 前回はナイフの種類や私のカスタムナイフについて綴らせて頂きましたね。今回は全国で増加しているクマ、シカ、イノシシなどの鳥獣被害や事故、そしてその対策について、全国の取り組みや私の住んでいる茨城県の取り組み、そして私の考えについてお伝えさせて頂こうと思います。

 2019年8月14日、札幌市に出現した1頭のヒグマが射殺されました。記憶に新しいこのニュースはさまざまなメディアに取り上げられ、道内だけでなく日本全国の人々の興味関心を集めましたね。また、最近では潟県見附市の県営住宅にクマがうずくまっていたというではありませんか……驚きです。

 珍しいからニュースになるのかと思いきや、調べてみると、環境省の令和元年データ(平成30年11月分暫定値)によれば、「クマによる被害事故」は149件もありました(うち死亡事故1件)。メディアに取り上げられる事故は氷山の一角に過ぎず、全国で多発していることがわかりました。このような野生鳥獣による被害や事故はなぜ近年増加しているのでしょうか? 行政の対策は? そして、個人としての私たちにできる事とは? 過去のデータなども参考にしながら、私の拙い文章を通して少しでも“狩猟”に興味のある方、すでに“狩猟”に携わっている方、そして何より“いのち”と向き合っている方のお役に立てれば幸いです。 

 

 【158億円!?!? 鳥獣被害の金額から考える】

 農林水産省の調べによると、平成30年度の鳥獣による農作物被害はなんと約158億円でした! 実はこの数字、前年度と比べて6億円も低くなっているんです(拍手)! それでもまだまだ158億円って……すごい金額ですよね? 今日はこの鳥獣被害について一緒に勉強していきましょう!

 鳥獣被害といっても都会に住まれている方はあんまりパッとしないかもしれません。私も東京に住んでいた時は「カラスやだなぁ」くらいの認識でしたしね。だけど農山漁村に住んでいる方にとっては一大事なんです。

 

 鳥獣による主な被害としては

◆農作物被害
◆車両との衝突事故
◆住宅地への侵入
◆家屋の糞尿被害

 などが挙げられます。

 特に農作物被害は本当に深刻な問題です。畑で作物を作っても作っても荒らされてしまい、それが農家のお財布に大打撃……営農意欲の減退、耕作放棄・離農の急激な増加につながりました。

 ……そうですね、都会で働いている貴方に例えるならば、鉄パイプを持った人が、週に3回くらい定期的に会社にやってきて貴方が半年前から進めているプロジェクト資料を根こそぎシュレッターにかけて、ついでにパソコンを鉄パイプでぶっ壊し、運悪く居合わせた貴方をぶん殴っては帰っていきます。もちろん亡くなる方も居ます。会社だけならまだいいです。貴方のお子さんが使う通学路で鉄パイプをぶん回すこともあります。怖いですよね? 会社行かなくなりますよね? そんな感じです(;´・ω・)

 農作物被害をもたらす鳥獣はシカ・イノシシ・サル・カラス等いますが、その大半をシカとイノシシが占めます。なんとこの10年でシカの個体数は約10倍に、イノシシの個体数は約3倍に増加しているのです! なぜこのようなことになったかというといくつかの要因が考えられますが、「高齢化によるハンターの減少」「農家総数の減少」などが挙げられます。鳥獣が増え、農家が減り、さらに鳥獣が増える……見事な負のスパイラルの完成なんです。

 

【麻酔は効くまで10分程度もかかり逆上したクマに襲われかねない】

 都会にも迫りくる野生鳥獣による事故を考える】

 そして鳥獣の増加により、人命にかかわる重大な事故も多発しています。車との衝突事故や、クマに襲われたことによる死亡事故も多発しています。

 

〈近年起こった野生鳥獣による事故(Nozomi調べ)〉

2016年5月 秋田県 ツキノワグマに襲われ男性3人女性1人死亡
2016年11月 群馬県 イノシシに襲われ男性死亡、妻もけが
2018年8月 富山県氷見市 イノシシとの衝突により乗用車炎上、運転者重症
2019年7月 宮城県気仙沼市 クマに襲われ男性死亡
2019年10月 秋田県秋田市 自宅敷地内にてツキノワグマに男性襲われ失明
2019年10月 香川県高松市 高松駅近くで女性がイノシシに体当たりされ負傷

 

 いくつかを抜粋しましたがまだまだあります。また2019年にはイノシシが相次いで東京都の足立区に出現しました。どうやら荒川沿いを下って都内に進出してきているのです。イノシシはとても適応能力、繁殖能力が高い生き物です。きっとこれからあっという間に増えていくでしょう。鳥獣被害の問題はもはや田舎だけの問題ではないのです。

 冒頭2019年札幌市でのヒグマの出没についてですが…クマが射殺されたことによって札幌市に百件以上のクレームが県外から札幌市に寄せられました。「山に返してやればいい」「若いクマがかわいそう」「人が山を切り開いたのだからしょうがない。被害者なのは鳥獣だ」そういったクレームが寄せられたそうです。

 この問題は“命”に係わる繊細なトピックなので様々な立場や立ち位置があり、様々な考え方がある事を重々承知した上であくまで私個人の考えを綴らせて頂きます。

 多くの方が知らなかったことですが、野生のクマを山に返すこと、麻酔銃を使うことはアニメや漫画のように簡単なことではありません。特に麻酔銃は普通のハンターでは取り扱うことができず、取り扱うには専門的な知識や資格(猟銃等所持許可と麻酔研究者:事実上麻酔医、獣医)がいるのです。もちろん普段からクマに麻酔を打つトレーニングなんてしている方はほとんどいません。

 

 ヒグマの親子のイメージ写真です。ヒグマはオスの成獣で体長3mにもなるんです。爪の長さもご覧の通り。これでひっかかれたらひとたまりもありません!

 

 麻酔銃(イメージ)です。麻酔は効くまで10分程度もかかります。ですのでよしんば命中しても、逆上したクマに射手が襲われる危険性もあるのです。

 

 そして、麻酔薬は効果を発揮するまで約10分程度掛かり、射程が短いため射手は暴れる可能性があるクマの約20m以内にいなくてはなりません。

 私達ハンターの立場からしても、どこか、お互いに干渉せずに生活できる桃源郷のような素敵なところに安全に彼ら(鳥獣)を連れていけるなら本当に連れていってあげたい。殺戮をしたくて駆除をしているわけではないのです。根絶やしにしたいわけではないのです。そして私は今、いつかは彼ら(鳥獣)の楽園だった森を切り開き追い出した土地に住んでいます。しかし、それはこの地球上に住むすべての人も同じです。自分の命が可愛い。安全なところに住みたい。自分の家族を守りたい。そう思う事、そしてそのために駆除活動をすることは、そんなに批判を浴びるようなことなのでしょうか……。遠くの山に返したとしても彼らはひと山でもふた山でも越えてくるのです。2019年、駆除活動中にクマに襲われ、命を落としてしまった方がいます。昔話でも作り話でもなく、“本当”に“人”が襲われ“亡くなって”いるのです。このような悲しい事故でお亡くなりになられた方々に深く哀悼の意を表すと共に、今後このような悲しい事故が起こらないように切に願うばかりです。

 

 前述したような鳥獣被害や事故を受けて、国や各自治体も対策を講じるようになりました! 平成19年に鳥獣被害防止特措法が成立。ざっくり説明すると「国がバックアップするから、各自治体がんばって鳥獣を減らしてね!」というような内容です。

 具体的には捕獲活動の強化、柵などの設置、農業者への指導・助言、生息状況調査、害対策の担い手の確保などなどさまざまな対策が、農林水産省のバックアップのもと実施されています。ちなみに私が住んでいる場所では2018年にわな猟免許を取得した際になんと2万円の補助金がありました! また、侵入防止柵設置や箱わなを購入する際などにも補助金がでます。農林水産省や自治体が主催している、狩猟や農業についての目から鱗が出るようなセミナーが、都内はもちろん、全国で開催されているのです!(そのほとんどが無料) このような補助金制度やセミナー等が貴方のお住まいの自治体にもあるかもしれません! 狩猟や農業、田舎暮らしについて気になっている方は是非お住まいの自治体へ問い合わせてみてくださいね。

 

【終わりに。目をそらしてはいけない“害人”による動物や地球への被害】

 ここまでお話させて頂いた中で、目をそらしてはいけない大切な事がひとつだけあります。それは私達ヒトによる、地球への“害人被害”です。先日、アメリカの科学雑誌によって地球滅亡までの残り時間を示す「世界終末時計」が、去年から20秒も進んで「残り100秒である」と発表がありました。また、ヒトの引き起こす生活環境の破壊や気候変動に伴い地球上の種数は急速に減少しています。種の絶滅ペースは、約2億年前は1000年で約1種類未満程度だったとされていますが、地球上にヒトがはびこった今は、なんと1年の間に約4万種の生き物が絶滅しているというではありませんか……。ヒトが地球やその他の動物たちにしてきたことに比べたら、私たちが“害獣”と呼ぶ生き物から受けている被害は実は大したことではないのかもしれません…。

 それでも私は、私たちは、生をもらった以上この地で生きていかなくてはなりません。ヒトという種を守る為、時には他の種の“いのち”を奪い糧として。ほかの生き物と共存・共栄するための道を探しながら。

 

 今回は全国で増加しているイノシシやシカ、クマなどの鳥獣被害や事故、そしてその対策についてお伝えさせて頂きました。次回は猟銃について、取得するためのフローや金額について綴らせて頂こうと思います。この連載を通して私の、私たちの想いが、少しでも誰かに繋がり、そして何かのお役に立てれば幸いです。

KEYWORDS:

オススメ記事

Nozomi

ノゾミ

茨城県の新米猟師。本業はヨガのインストラクター。東京に10年以上住んだ後、一念発起して茨城へ移住。ヨガレッスンの傍ら、おばあちゃんの畑のお手伝いをしている。畑に出る猪を駆除するために“狩猟免許”を取り仲間と共に害獣駆除を開始。近年の猟師・農家の高齢化・減少の現実受けて少しでも若い人に、そしてたくさんの人に“農業”について、“狩猟”について、そして“いのち”について興味を持って持ってもらいたいという想いから2019年1月よりYouTubeにて“Nozomi's狩チャンネル”を配信。2020年にはワーキングウエア(作業服)・防寒着・安全靴・長靴、レインスーツの専門店チェーン<ワークマン>公式アンバサダーにも就任。



♦Nozomi's狩チャンネル

https://www.youtube.com/c/nozomikarichan



♦ランドネたのしみ隊第一期生


この著者の記事一覧