Scene.2 伝説を作るんだぜ!
高円寺文庫センター物語②
新店舗はレジカウンターを中心に扇型に書棚が配置され、レジから見て左手に正面入口と、右手に商品搬入を含めたサブ入口のインテリア。ひと目で見渡せる、小さな本屋。
「よし、これなら見渡せて万引きに眼が行き届くな」
すかさずバイトくん達から「万引きって、そんなに多いんですか」と疑問の声。
「万引きを発見できるなんて、氷山の一角のそのまたはじっこ。いまこうしていたって、ボクはキミらを見ないで前を向いているだろ。お店にお金を落としてくれるお客様は神様。でもさ、この国は八百万の神だからね。ボクらにとっての貧乏神もいるんだよ」
本屋の天敵は万引き、この犯人たちを世間も犯罪者と思ってないからタチが悪い。万引きなどという名詞でなく、窃盗犯と言うべきだよ!
「店長、マップはこんな感じでどう?」
やはり地元採用の、ちばちゃん。彼女に頼んでいた「高円寺イラストMAP」のデザインが出来てきた。
楽しいイラストも添えて作ってある。彼女に頼んで正解だった。
この「高円寺イラストMAP」は文庫センターの中心的アイテムになっていく。
テレビ「出没! アド街ック天国」の放映で、「高円寺駅に降り立ったら、まずは文庫センターに寄って『高円寺街歩きMAP』をゲットしよう!」というナレーションが流れたとき、成功を確信した瞬間だった。
裏原宿のように、裏高円寺な古着屋などのお店ができ始めていた2000年前後。
あずま通りの、路地を入れば「リヤカー、貸します」の看板。地元ならではのアナログ情報と遊びに来る「観光客」に向けての最新ネタを提供しつつ、文庫センターのPRをと始めたのだった。
これまで「高円寺街歩きMAP」的なものが作られていなかったのが不思議に思える街・高円寺。本屋であるが故に「客待ちではなく、打って出る情報発信基地」と、考えた。
「店長、マップのコピーできましたよ」
開店準備の際に、出版社にいろいろお願いしてもらったものがある。なかでもティッシュ。これに「高円寺街歩きMAP」を付けて、高円寺駅で配ることにした。
南口と北口に分かれての大作戦で、バイトくん総動員でのPRだ。とにかく高円寺文庫センターを知ってもらわないと始まらない。
そんな発想は労働運動から。ボクは1970年代中頃から本屋の労働運動をしていたので、経験を活かしての「ビラまき戦術」なのだ。
ボクの書店デヴューは神保町の書泉、76年に組合を作ったら組合潰しの1次争議・2次争議。組合の財政を支えるために途中からバイト部隊の一員として、文庫センターの本店である西荻窪の信愛書店にお世話になったのが物語の始まりになったのだった。
「店長、大変ですよ! 怖いお客さんが注文品のクレームです!」
表情にあまり変化のない、さわっちょの顔に緊張感がみなぎっている・・・・
怖いって、あのお客さんかな? 出るの嫌だな、なんの苦情だろ?!