【導火線(どうかせん)】振り返り、若返り、よみがえり・・・青春の思いは「幻(まぼろし)」だったの?《マンガ&随筆「異種」ワンテーマ格闘コラム》Vol.20
【連載マンガvsコラム】期待しないでいいですか?Vol.20
◼︎妹・吉田潮は【導火線】をどうコラムに書いたのか⁉️
導火線
感情が爆発しやすいタイプだったと思う。瞬間湯沸かし器とまではいかないけれど、秋篠宮佳子さま風に言えば「導火線が短い」ほうだった。そして感情が確実に顔に出てしまう(あ、これは今でも変わらないけれど)。
今思えば、「あのときなんであんなに怒ったのだろう」案件が実に多い。多くは些末なこと、たった一言で導火線に火が付き、あっというまに爆発。それで切れてしまったご縁が数えきれないほどある。導火線30㎝未満、みたいな。
たとえば、女友達H。話は思春期の頃に遡る。Hがクラスの男子Aと授業中に手紙のやりとりをしていた。よくあるやつだ、ノートの端っこを破って、はしりがきして、席の間の人を介して回す方式ね。何がきっかけだったか思い出せないが、その手紙を私が偶然見てしまった。落ちていたんだったか、よりによって私を介してしまったのだったかは思い出せないのだが、そこには「潮ちゃんはAくんのことが好きみたいよ」的なことが書いてあったのだ。え? どういうこと?
授業後、ベランダでHを問い詰めた。「これはどういうこと? なんで私が出てくるの?」と。すでに導火線に火はついている。Hはうろたえて、こう答えた。「前はAくんをものすごく嫌っていたけれど、最近は、逆に好きの裏返しなんじゃないかと思って……」。はぁ? いや、たとえそうだったとしても、なんであんたがわざわざ授業中に手紙で知らせる必要があるんじゃ? しどろもどろのHは自分を正当化しようとした。さては、こうやってあることないことを秘密の暴露と称して、男子にとりいっているのか? そう思うとはらわたが煮えくり返って、つい平手打ちをしてしまった。「二度とすんな」の捨て台詞を吐いて、それ以降Hとは距離を置いた。
なんでそんなに怒ったのか。「おいおい、ウソつくなよ~」で笑って済ませればよかったではないか。でもあの時の私は「コケにされている」と思ったし、秘密の暴露を匂わせて男子に取り入るHが許せなかった。なによりも、たぶん図星だったからだ。私は顔に出やすいため、Hにも読み取れたのだと思う。私の秘めた感情が。
たとえば、女友達E。私が酒も夜遊びもオールラウンドかつ仕事も多忙だった頃の話だ。私は彼女の仕事を尊敬していたし、彼女も私のフリーライターという仕事を理解してくれていると思っていた。ところが、彼女の仕事で人間トラブルが頻発し、人手が足りなくなったときに電話で言われた。「どうせ飲んだくれてる暇があるんだから、ちょっと手伝ってよ。ライターの片手間でいいからさ」。
原稿のオファーならまだしも、片手間で事務仕事を手伝えとはどういうことか。ライターの仕事も甘く見られたもんだなと思った。もちろん出版界カーストの最下層ではあるけれど、片手間に他の仕事をできるほど器用でも暇でもない。このときは怒りの導火線というより虚しさの導火線だった。敬意を払っていたのは私だけだった。そして、彼女とは距離を置くようにした。
なぜあのとき、「無理無理~!私もこう見えて忙しいからさ」と笑って受け流すことができなかったのだろう。たぶんちんけなプライドだ。でもライターの仕事に私なりの矜持があった。Eは認めてくれていると思っていたから、とても虚しかった。
たとえば、知人M。たとえば、知人S。煮え切らない彼氏に自分はどうしたらいいのか悩んでいるとか、いいなと思う男性から誘われたが仕事上の付き合いだから後々面倒なことになったら困るとか、延々と話されて爆発したこともあった。
背中を押そうにも彼女たちは自分が主語じゃないから、ついイライラしちゃって。最後には「んなもん知るか!!」とか「ヤリたいならヤれ! イヤなら全力で断れ!以上!」といって泣かせてしまったこともある。あのとき、学んだ。彼女たちは答えなど求めていないことを。白黒ハッキリしなくていい、ただただ恋バナを聞いてくれるだけでいいのだと。女心がまるでわかっていなかったよ。
女友達だけではなく、懇ろになった男性でも、私の短い導火線で縁を切ってしまった人が数多いる。相手からすれば理不尽。でも後悔はないし、もう記憶も薄れ始めている。というか名前すら思い出せない。向こうも同じだ。うっかりかまいたちに遭ったくらいで忘れているはず。そんなにいい恋愛を経験していないのだな、私は。女友達は後から考えればいろいろと勉強になるし、後悔することも多いのに。
今は導火線もだいぶ伸びた。たぶん1メートルくらいはあると思う。いや、もしかしたら導火線は30㎝未満のままだが、湿気っているのかも。怒りって、エネルギーなんだよね、生命体の。私にはそのエネルギーがなくなってきているのだろう。そもそも怒りを感じるほど人と交流していないというのもある。
怒りではない、別の導火線のほうが着火しやすくなっているかもしれない。自分が言った言葉、至らない振る舞い、自意識過剰の情けなさ……振り返り始めたら、次々と「恥と後悔」が数珠つなぎで脳内によみがえってくる。「恥と後悔」の導火線は実はものすごく長い。3メートルくらいある。しかも1本ではなく、枝分かれしていたりする。直列回路ではなく並列回路。火はついているが、途中で消えたりして爆発に至らず。かえって長い時間をかけてジリジリ悶々としてしまう。
「あのときの私を平手打ちしてやりたい」「不寛容な自分に反吐が出る」「優しさと思いやりを忘れて生まれてきちゃったな」「穴があったらダイブしたい」とか。恥と後悔は走馬灯のように脳内に浮かんでくる。
ちょいと脱線するが、走馬灯って比喩でよく使うけれど、「くるくる回る灯籠」と知っていました? 私はまったく違う映像を浮かべていた。柔らかい光にぼんやりと映る回り灯籠でしみじみ振り返るのではなく、馬具に灯をつけた鼻息の荒い馬が数百頭、鞭うたれてアドレナリン全開で目の前を怒涛の如くパカラッパカラッと駆け抜けていく……と思っていた。情緒もへったくれもないわな。
ともあれ、恥と後悔の長い導火線は火が付いたり消えたりを繰り返している。もう少し年を重ねたら、今度は悲しみの導火線も加わるのではないか。すぐ泣く、よく泣く、ねずみ花火のようなとても短い導火線が。もちろん長ければいいとは思わない。湿気ってくすぶっていることをちゃんと自覚しておこうと思う。
(連載コラム&漫画「期待しないでいいですか?」次回は来月中頃です)
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毎月14、15日頃連載コラムvsマンガ「期待しないでいいですか?」
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