【注目の岩田健太郎教授が分析】新型コロナウイルス対策でも繰り返すのか? 検証と改善なき感染症対策~問題の本質はどこに?~
インフルエンザ なぜ毎年流行するのか④
過去には、SARSやMERSといった感染症が世界を震え上がらせたが、日本での感染例はあまりなかったとされる。その裏に日本の「水際対策」が万全だったからなのだろうか?
感染症診療の第一人者であり、神戸大学大学院医学研究科感染治療学分野教授・岩田健太郎氏の著書『インフルエンザ なぜ毎年流行するのか』(KKベストセラーズ)から、感染症対策への本質的な問題を解き明かす。
◆検証なき感染症対策で「同調圧力」に“感染”し続ける日本
日本にSARSやMERSが持ち込まれなかったのは「水際対策」のおかげではありません。2016年から流行したエボラ出血熱も同様で、日本には1例も持ち込まれず、よって「水際」で止められた事例もなかったのです。そして09年の「新型」インフルは容易に日本に入ってきましたし、それはアメリカ大陸での流行からわずか2ヶ月後のことでした。
検疫所の所長や厚労省の担当者が参加する会議に出席するたびに、ぼくはこの「水際対策」に「どのくらい」の費用対効果があり、継続の必然性があるのかを問うのですが、まともな答えが返ってきた例がありません。そこにシステムがあるから、継続する、「やるから、やる」といったトートロジーと現状維持の圧力しかないのです。本当にこれでいいのでしょうか。
「水際対策」は人々の生活の質にも著しい障害をもたらします。09年のインフルエンザでは、海外からの帰国者(病気ではありません)が検疫のためにとどめ置かれて、長い間ホテルに閉じ込められていました。このような人権を制限する措置は本当に必要だったのか。必要だとしたら、それはいかなる根拠によるものなのか。あのときの反省はちゃんと生かされているのか?
2014年のエボラのときは、アメリカ合衆国もヒステリックになりました(ま、あの国はしょっちゅうヒステリーを起こすのです)。アフリカでエボラ対策をして帰国してきたアメリカ人たちに「外出するな」という外出禁止を要請したのです。例えばニュージャージー州がこういう施策を取りました。
感染症が流行したときにパニクるのは、日本もアメリカも同じです。
ただ、アメリカ人の偉いところは、あとでこのような政策が本当に有効だったかを検証する態度です。そして、おかみの言うことでも納得行かないことは納得行かない、と市民が文句を言うことです。
結局、ニュージャージー州の「隔離」政策は訴訟に持ち込まれ、昨年(2017年)にようやく決着が付きました。ニュージャージー州は、海外からの感染症疑いがあったときに「隔離」を要求するにしても、ちゃんとその要求に異議を申し立てることができます。また、メディアの大騒ぎを回避するために、対象者のプライバシーにきちんと配慮することも明記させられました(Santora M. New Jersey Accepts Rights for People in Quarantine to End Ebola Suit. The New York Times [Internet]. 2017 Dec 22 [cited 2018 Aug 27]; Available from: https://www.nytimes.com/2017/07/27/nyregion/new-jersey-accepts-rights-for-people-inquarantine-to-end-ebola-suit.html)。
「なっとくいかん」と文句を言った人々によって、システムの改善がなされたのです。
翻って日本では、「国が決めたこと」について末端の現場の人間や隔離・検疫対象者は文句ひとつ言うことも許されません(同調圧力の強さのためです)。文句を言えば、会議から外されたりして発言権は失われます。「一度決まったことは決まったこと」と見直しがなかなかなされないのも日本の問題点です。人権への配慮も乏しく、エボラ「疑い」の方が病院で経過観察入院しただけでテレビの臨時ニュースで大騒ぎしていました。
「水際対策」は国の税金を使った大掛かりな事業です。納税者は自分たちの払っている税金がちゃんと結果を出しているのか、きちんと検証するべきです。「結果」が出ていないことについては、改善を要求するのが当然の権利であり、また義務でもあります。
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『インフルエンザ なぜ毎年流行するのか』
著者/ 岩田健太郎
本屋さんの「健康本」コーナーに行くと、たくさんの健康になる本とか、病気にならない本とか、長生きする本とか、若返る本とか、痩せる本とかが売っています。ところが、そのほとんどがインチキだったり、ミスリーディングだったり、センセーショナルなだけだったり。要するに「ちゃんとした」本がとても少ないのです。そういうわけで、感染症や健康について、妥当性の高い情報を提供しようと、本書をしたためました。