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「仲間はずれ、無視、陰口」経験者9割…深刻ないじめ問題に対する文科省の姿勢

第97回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-


 東京都町田市の小6女子児童の事件を受け、文科省が各教育委員会へ伝えたのは抽象的で非現実的な現場への指示である。はたして文科省に「いじめを無くす」ための情熱と具体的なプランはあるのだろうか。


■新味のないいじめ対応マニュアル

 文科省は9月21日、「いじめ防止対策推進法等に基づくいじめに関する対応について」という「事務連絡」を各都道府県教育委員会などに出している。これで、「なるほど」と目から鱗が落ちるような思いになった学校関係者は、ほとんどいないのではないだろうか。

 東京都町田市立の小学校に通っていた6年生の女子児童が、昨年11月にいじめを苦に自殺した件を受けての文科省の対応である。
 事務連絡は冒頭で、「いじめの未然防止・積極的な認知・対処については、これまでも、各種行政説明や通知等によりお願いしてきたところであり、いじめ防止対策推進法に基づいて適切に取り組んでいただいていることと存じます」とある。
 しかし、適切に取り組んでいるのなら、自殺という事態にはならないはずだ。適切に取り組まれていない実態があるのでは、と思わせる。もしくは、「適切」としてきたことが不十分だったのだろうか。だが、「通知」には目新しいものがあるわけでもない。

 そこには国立教育政策研究所生徒指導・進路指導センターの「いじめ追跡調査2016-2018」(2018年度の中学校3年生の6年間の経験回数より)からの資料が添付されている。それは小中学生の6年間における「仲間はずれ、無視、陰口」の経験の有無を訊いた結果である。
 それによれば、「された経験がある」が9割に達している。「した経験がある」も、9割となっている。これを見る限り、学校ではいじめが横行している、と思わざるを得ない。このような実態がありながら、なぜ文科省は「事務連絡」で「適切に取り組んでいただけていることと存じます」と判断したのだろうか。

■文科省からの指示は机上の空論

 その文科省が「事務連絡」で、いじめ防止について教育委員会などに指示をしているのだ。最初の項目には、「いじめの積極的な認知と早期の組織的な対応」とある。そこには、「いじめを積極的に認知することは、いじめへの対応の第一歩」と記されている。そして、「些細な兆候であっても、いじめではないかとの疑いを持って、早い段階から複数の教職員で的確に関わり、いじめを軽視したりすることなく、組織的な対応を行うことが求められます」と続く。

 間違ったことを言っているわけでは、もちろん、ない。しかし、「いじめの積極的な認知と早期の組織的な対応」ができるのか、という問題がある。そして、それが最大の問題でもある。積極的に認知して早期に対応すれば、いじめが劇的に減る可能性はある。誰もが納得できる理屈だ。ただし、言うは易し、である。

 さらに「事務連絡」には、「いじめの未然防止」という項目がある。そこには、「いじめの対応にあたっては、事案を認知してから対応するのみならず、未然防止に取り組むことも重要です」とある。これも至極当然である。
 続けて、「学校の設置者及びその設置する学校は、児童生徒の豊かな情操と道徳心を培い、心の通う対人交流の能力の素地を養うことがいじめの防止に資することを踏まえ、全ての教育活動を通じて学校におけるいじめの防止に取り組むことが重要です」と述べている。これまた、理屈としては異論を唱えようのないものである。

 この「事務連絡」で述べられていることが学校現場で実践されているとしたら、いじめが問題にされるような現状にはなっていないはずだ。「仲間はずれ、無視、陰口」をされた経験も、した経験もある生徒が9割もいるはずがない。
 逆に言えば、9割という数字は、「事務連絡」が言っているようなことが学校現場でできていない証拠である。そのような数字を挙げながら、文科省は「事務連絡」でもって「できていないだろう」と念押しし、あるいは非難していることになっていないだろうか。

■本気でいじめを無くすために…

 学校現場が「事務連絡」が指摘しているようなことを、意識していないわけではない。理屈は百も承知しているはずである。
 同時に、「事務連絡で言っているようなことができれば苦労しない」というのが学校現場の本音のような気がする。「分かっているけど、それができないから苦労しているんじゃないか」と言いたいところだろう。

「いじめの積極的な認知」のためには、子どもたちと近い距離で接している必要がある。密なコミュニケーションも絶対に必要だ。1クラスに40人もの児童生徒がいる現状で、はたして可能だろうか。現場からは、「ノー(No)」と即答されるに違いない。忙しすぎる教員に、いじめを的確に認知できる余裕を持てというのは難しい。

「教育活動を通じて学校におけるいじめの防止に取り組むことが重要」と「事務連絡」は言っているが、それが難しいからこそ、学校現場は悩んでいる
 今回の「事務連絡」は、そういった学校現場の悩みに応え、解決策を探るような内容ではない。文科省としては町田市の女子児童の自殺を受けて対処したつもりかもしれないが、は何の対処にもなっていない。学校現場を非難して、ストレスを増やしただけのことである。

 そろそろ、こんな文科省の姿勢は改めるべきではないだろうか。いじめの積極的な認知、教育活動を通じていじめを防止に取り組むのが必要と考えるのなら、それができる環境づくりを具体的に提案し、実現のために先頭に立って行動すべきではないだろうか。きっと、学校現場も同じように思っているはずである。

 

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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