公的年金資金の運用は本当に上手くいっているのか?
元野村投信ファンドマネージャーの警鐘・金融資産が消滅する! 第4回
■年金運用を行うGPIFは度々、多額の損失を計上している
日本の公的年金資金の運用を行っているGPIFの運用はうまくいっているのでしょうか。
「世界最大の機関投資家」として多額の公的年金資金を運用するGPIFは、2018年度に2兆3795億円の収益を上げ、公的年金資金の市場運用を始めた2001年度からの収益累計が 65・8兆円に達したと報じられています。しかし、常に順調に収益を上げてきたわけではありません。
GPIFは、2015年度には第2四半期(2015年7月から9月期)に7兆8899億 円、第4四半期(2016年1月から3月期)に4兆7990億円の損失を計上し、年度を通しても5兆3098億円の損失を計上しています。
さらに、2016年度第1四半期(2016年4月から6月期)には5兆2342億円、2017年度第4四半期(2017年1月から3月期)には5兆5408億円の損失に見舞われたほか、2018年度第3四半期(2018年9月から12月期)には米国を中心とした世界的な株安に円高が加わったこともあり、14兆8038億円という大きな損失計上を余儀なくされています。
このようにGPIFはたびたび多額の損失計上に見舞われているのです。そしてその度に一部のメディアで公的年金が破綻するかのように大きく取り上げられる一方、政府は一貫して「短期的な運用結果が年金財政の問題に直結したり、年金給付に直ちに影響を与えたりすることはない」と全く意に介さないようなコメントを出す光景が繰り返されました。
■GPIFが多額の損失を出したら年金給付に影響はあるのか?
では本当にGPIFが運用で大きな損失を出しても年金給付には支障はないのでしょうか。
政府がGPIFの多額の損失計上にもかかわらず落ち着いていられるのは、現在の年金給付が現役世代から徴収する年金保険料と税金で賄われていて、GPIFの運用資産が財源として使われていないからです。
現在年金給付の財源としてGPIFが管理運用する資金は使われていないのですから、GPIFが短期的に数兆円、時には10兆円を超えるような損失を計上しても政府は「年金給付に直ちに影響を及ぼさない」と他人事のようにしていられるのです。
GPIFの運用失敗が直ちに現在の年金給付に影響が及ぶのであれば政府はこんなにのんびりはしていられません。年金支給額の減額を余儀なくされ、それが年金受給者である世代の反発を招いて選挙結果に悪影響が出ることは必至だからです。
しかし、現在の年金受給者への年金支給は現役世代から徴収した年金保険料と税金で賄われており、GPIFの運用成績とは切り離されています。こうした状況なので、安倍政権はGPIFの運用成績に無頓着でいられるのです。
そして、GPIFの運用失敗が、現在の年金給付に影響が及ばない状況になっていることが、GPIFの資金をアベノミクスの成果を演出する道具に使おうとさせた要因であるともいえるのです。
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KEYWORDS:
『202X 金融資産消滅』
著者/近藤駿介
アベノミクスを支えた世界最大の機関投資家GPIFの日本株離れが始まる。
個人の金融資産のメルトダウンをどう乗り切るか!?
元野村投信のプロ・ファンドマネージャー、現・金融経済評論家、コラムニストの著者がアベノミクス後にやってくる日本経済の危機に警鐘を鳴らす。アベノミクスを日銀とともに支えた世界最大の機関投資家GPIFが、安倍政権退陣後に日本株の売り手に転じることから株価が暴落し、日本人の金融資産や年金が大幅に目減りする。早ければ2020年代前半に始まる日本経済の長期低迷への備えを提案する。著者は東洋経済、ダイヤモンド、ブロゴスへの寄稿や、MXテレビ「WORLD MARKETZ」のレギュラーコメンテーターを務めるなど、さまざまな経済メディアで活躍中です。
【内容】
第1章 作り出されたアベノミクス相場
第2章 世界最大の機関投資家GPIFとは何だ
第3章 GPIFの運用の問題点
第4章 早ければ2020年からGPIFは売手に回る?
第5章 投資の常識は非常識
第6章 「世界最大の売手」が出現する中での資産形成