年金運用機関GPIFが負っている宿命と株式市場への影響度 〜運用収益は絵に描いた餅!?〜
元野村投信ファンドマネージャーの警鐘・金融資産が消滅する! 第6回
■GPIFの大規模な買付で日本株価も大幅上昇
GPIFが半年間で国内株式の持ち高を約7・8兆円増やしたことで株価も大幅に上昇することになりました。GPIFの国内株式の運用においてベンチマークとなっている「TOPIX配当込み指数」は、基本ポートフォリオの変更を決めた10月末時点で1822・ポイントでしたが、2015年3月末には2128・ポイントま306・22ポイント、16・8%もの上昇を記録することになりました。
こうした市場全体の上昇によって2014年9月末時点で23兆8635億円の評価であった国内株式の価値も27兆8725億円程度まで拡大したと考えられますので、こうした相場上昇の影響を考慮すれば、2014年10月31日に基本ポートフォリオの変更を実施したGPIFは、2015年3月末までに約3・8兆円の国内株式を買増したことが想像されます。
3・8兆とも推計されるGPIFによる大規模な買付が日本株の大幅上昇の原動力になったことは論ずるまでもないことです。しかも、株価上昇をもたらしたのは多額の買付規模だけではありません。「世界最大の機関投資家」が国内株式への投資を増やすというアナウンスメント効果が、実際の大規模な買付額と同じくらい大きなインパクトを及ぼしたことは想像に難くありません。
2014年9月末時点で130兆8846億円もの運用資産を持っていた「世界最大の機関投資家」と称されるGPIFが基本ポートフォリオを変更し、国内株式の資産構成割合を12%から25%へと倍に引き上げるならば、単純計算で約17兆円もの投資資金が日本株市場に流れ込んでくることになると誰もが考えることでしょう。
このニュースを耳にした投資家は、ほぼ全員がGPIFに先んじて日本株に投資しようと考えるはずです。何しろ自分よりもずっと大規模な資金を持つGPIFが日本株に大量の資金を振り向けることが確定しているのですから、それはほとんど損をする可能性がない投資だからです。
時としてこうしたアナウンスメント効果が実際の買付効果を上回る場合すらあります。それが「世界最大の機関投資家」であるGPIFに関するものだとなればなおさらです。
安倍政権はアベノミクスの効果を強く印象づけるために、「世界最大の機関投資家」であるGPIFによる国内株式の組入比率引き上げ決定というアナウンスメント効果を最大限に利用して日本株の上昇を誘った格好になりました。
KEYWORDS:
『202X 金融資産消滅』
著者/近藤駿介
アベノミクスを支えた世界最大の機関投資家GPIFの日本株離れが始まる。
個人の金融資産のメルトダウンをどう乗り切るか!?
元野村投信のプロ・ファンドマネージャー、現・金融経済評論家、コラムニストの著者がアベノミクス後にやってくる日本経済の危機に警鐘を鳴らす。アベノミクスを日銀とともに支えた世界最大の機関投資家GPIFが、安倍政権退陣後に日本株の売り手に転じることから株価が暴落し、日本人の金融資産や年金が大幅に目減りする。早ければ2020年代前半に始まる日本経済の長期低迷への備えを提案する。著者は東洋経済、ダイヤモンド、ブロゴスへの寄稿や、MXテレビ「WORLD MARKETZ」のレギュラーコメンテーターを務めるなど、さまざまな経済メディアで活躍中です。
【内容】
第1章 作り出されたアベノミクス相場
第2章 世界最大の機関投資家GPIFとは何だ
第3章 GPIFの運用の問題点
第4章 早ければ2020年からGPIFは売手に回る?
第5章 投資の常識は非常識
第6章 「世界最大の売手」が出現する中での資産形成