「海に還ったたこ八郎、空に消えた坂本九、佳人薄命の象徴となった夏目雅子。わずか50日間に相次いだ予想外の死」1985(昭和60)年【宝泉薫】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「海に還ったたこ八郎、空に消えた坂本九、佳人薄命の象徴となった夏目雅子。わずか50日間に相次いだ予想外の死」1985(昭和60)年【宝泉薫】

【連載:死の百年史1921-2020】第11回(作家・宝泉薫)

夏目雅子

■白血病による27歳の夭折、夏目雅子

 

 さらに、その翌月には、女優の夏目雅子が帰らぬ人となる。白血病による、27歳での夭折だ。

 亡くなった9月11日は「ロス疑惑」の三浦和義が逮捕された日でもあり、メディアはごった返した。が、彼女の死の衝撃がうすれることはなく、むしろそのコントラストにより、儚い悲劇性がより際立った感もある。

 当然ながら、彼女の活動期間は短く、丸9年にも満たない。女優デビューは76年9月で、病に倒れ、最後の舞台を降板したのは85年2月だ。

 ただ、そのあいだにいくつもの作品で鮮烈な印象を残した。ドラマなら「西遊記」(日本テレビ系)に「野々村病院物語」(TBS系)映画なら「鬼龍院花子の生涯」に「瀬戸内少年野球団」。NHKの大河ドラマにも3作出演していて、最初の作品が「黄金の日日」(78年)だ。これが現在、BSプレミアムのアーカイブ枠で再放送中だったりする。

 彼女が演じたモニカは敬虔なクリスチャンだが、根津甚八扮する石川五右衛門に犯され、恋に落ちたあと、非業の死を遂げる。初期の彼女は「お嬢さん芸」などと揶揄されてもいたので、そう思って見ていると、どうしてどうしてちゃんとしている。体当たりで濡れ場に挑んでいるあたり、いわゆる女優根性というやつをひしひしと感じるのだ。

 そう、彼女の武器は美貌だけでなく、エネルギッシュな熱情だった。たとえば、闘病中、立原正秋の小説「春の鐘」が古手川祐子主演で映画化されたことを知ると、自分がやりたかったと悔しがったという。

 立原は朝鮮の血をひく作家で、不倫などの愛憎モノを得意としていた。そして、夏目は私生活において在日韓国人の作家・伊集院静と不倫の末、結婚。いわゆる不義の子を何度も中絶したことも明かされている。そういう愛憎の世界なら自分のほうがリアルに演じられるという自負もあったのだろう。

 とはいえ、そういう人だけに、長生きしていたら薄幸の美女ではなく、魔性の悪女というイメージをふりまいていた可能性もある。不幸にして、伊集院との結婚生活は1年ちょっとで終わったが、彼女が白血病にならなかったら、別のかたちで途切れた気もしなくもないのだ。

 しかし、彼女は夭折した。それゆえ、こんなエピソードも清らかな印象をかもしだす。子役時代「瀬戸内少年野球団」に出演した山内圭哉が明かした話だ。

「ロケでずっと旅館におるんですけど、男湯が1階で女湯が真上やったんですよ。お風呂場で騒いでたら『うるさい』って声が聞こえて、窓をのぞいたら、ハダカの夏目さんが『うるさいよ、あんたたち』って。で、スタッフのお兄ちゃんたちが色めき立って『お前、行って来い』と。洗面器渡されて『お湯、持って帰って来い』と。『子供行かせてもいいですか』『いいよ』って。それで『どうやった?どんなんやった?』ってお兄ちゃんたちに聞かれて、僕は苦しまぎれに『ハート型やった』って言ったら『ほー、ハート型や』って」(「帰れマンデー見っけ隊」初回3時間スペシャル」テレビ朝日系)

 山内はこの番組に、波瑠とともに出演。NHKの朝ドラ「あさが来た」で共演した関係だ。「波瑠ちゃんとお仕事したとき、夏目さんに似てるな、と思った」とも話していた。じつは朝ドラの2年前、波瑠は伊集院の自伝的小説の実写化である「いねむり先生」(テレビ朝日系)で夏目をモデルにしたマサコを演じている。

 それにしても、たこ、坂本、夏目はわずか50日のあいだに亡くなったわけで、これほど有名人の予想外の死が相次ぐことは珍しい。ただ、今となっては三人三様に運命的な必然だったようにも思われる。たこは海に還り「上を向いて歩こう」や「見上げてごらん夜の星を」の坂本は空に消え、夏目は白血病という悲劇的な病気で佳人薄命の象徴となった。

 いずれも人々の心に若々しい輝きをとどめているのは、せめてもの救いだろうか。ほとんどの予想外の死は、時がたてばたつほど、どこか自然なものとして受け止められるようになっていく。それもまた、せめてもの救いかもしれない。

 

文:宝泉薫(作家・芸能評論家)

 

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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