歯科院内感染のホント
【第1回】「歯科の駆け込み寺」~ 斎藤先生がこっそり教える 歯医者のホント
■怖い院内感染
とどまることを知らない新型コロナウイルスの脅威。世界中を混乱の渦におとしいれているが、その影響は歯科医療界にも及んでいる。
「診察のキャンセルが相次いでいるのです」
できるかぎり歯を抜かない治療をうたい、セカンドオピニオンにも積極的に取り組んでいる斎藤正人歯科医師のもとには都内だけでなく、全国から患者が来院するが、ここのところ、状況が一変している。
「遠方からの患者さんはやはり都心に出てくること自体、不安なのでしょう。少し様子を見てからにしたいという気持ちはよくわかります」
人がたくさんいる雑踏に足を踏み入れれば、コロナウイルスの脅威にさらされる可能性は高くなる。歯科医院で治療を受けることも安全とはいえない。ただし、最近の歯科医院は完全予約制を敷いているところが多いので、待合室に人が集まりすぎるという心配はほとんどない。危険度が増すのは、あくまでもその歯科医院がしっかり院内感染対策を講じていない場合である。
いまから40年近く前、斎藤歯科医師はその危険性を間近で感じる体験をしている。
「大学院生だったころ、私は歯を抜く経験を積みたくて、口腔外科の先生のところで、週1回、診療をやらしてもらっていました。あとでわかったのですが、そのときに患者さんからウイルスを感染していたんです」
歯をいかに残して治療するかが、斎藤氏の歯科医師としての最大のテーマになっているが、どうしても歯を抜かなければならないケースにも直面する。歯を抜く技術も十分に身につけておかなければと思い、大学院時代にそうした勉強に励んでいたのだ。
ウイルスに感染していたことを知ったのは、勤務医として日本専売公社東京病院(現国際医療福祉大学三田病院)に勤めだしてからだった。
「すでに院内感染への不安は歯科医療界でも高まっていました。特にB型肝炎の問題が取り沙汰されるようになっていたのです」
歯科治療にかかわる人たちの間でB型肝炎問題がクローズアップされるようになったのは1980年代。B型肝炎ウイルスは血液や体液を介して感染する。治療中に血液や唾液が飛び散る歯科医療は、院内感染が起こりやすいのである。患者から歯科医師、さらに患者へと感染する経路が言われだし、その対策の必要性が強く認識されるようなったのだ。
「自身がB型肝炎にかかる恐怖、そして患者さんにうつす不安。それを払拭するために、B型肝炎の予防ワクチンを打ってもらいに病院に行ったんです。検査をすると、『君にはB型肝炎の抗体ができていて免疫があるので、もう打つ必要はない』と言われた。知らないうちにB型肝炎に感染し、知らないうちに治っていたというのが医師の説明でした」
発症しなかったのは幸いだった。もし発症していたら、長期間の闘病を余儀なくされたかもしれなかった。だが、それはたまたまの結果である。斎藤歯科医師は将来、開業する際には、院内感染の対策を怠ってはならないと、このとき肝に銘じたという。
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