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新型コロナウイルスで、MMT批判も自粛ですか?

話題のMMTブームの仕掛け人、評論家・中野剛志が緊急寄稿

■「インフレが止まらなくなる」などという戯言に付き合っている余裕は、日本にはない

 これに対して、小黒先生は「民主主義の下で政府支出の削減や増税を迅速かつ容易に行うのは極めて難しい」から、財政支出を拡大してはならないと主張したのです。

 つまり、「財政支出の拡大を許したら、インフレが止まらなくなる」というのです。

 ということは、小黒先生のお考えでは、新型コロナウイルス対策や経済危機対策のための財政支出の拡大についても、インフレが止まらなくなるから、すべきではないということになるのでしょうか。

 いや、そうではなく、「今は緊急事態だから、財政支出の拡大もやむを得ないが、財政赤字の拡大を防ぐために、他の政府支出の削減や増税が必要だ」というご意見なのかもしれません。

 でも、それはないでしょう。なぜなら、小黒先生は「民主主義の下で政府支出の削減や増税を迅速かつ容易に行うのは極めて難しい」と言っていたのだから。

 

 もちろん、小黒先生も、さすがに今は、「インフレが止まらなくなるから、財政出動するな」などという主張は自粛するだろうと思います。

 他のMMT批判者も、今は、いっせいに自粛しているようですね。

 

 しかし、財政健全化は、すでに大きな被害をもたらしているのです。

 NPO法人POSSE代表の今野晴貴氏によると、国立感染症研究所の研究者は、2013年の312人から現在は294人に減らされています。

 アメリカと比較すると、人員は42分の1、予算は1077分の1しかないのだそうです。

 さらに、保健所は、1992年には全国に852カ所あったのに、2019年には472カ所と、実に45%も減っています。https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200227-00164904/

 

 また、大妻女子大学の小谷敏教授によると、過去17年間で、国家公務員や地方公務員の数は大きく減らされてきました。公務員の非正規化も進められてきました。

 日本政府は、人口1000人当たりの公務員の数が主要先進国の中でも少ない「小さな政府」だったにも関わらず、削減され続けてきたのです。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71045

 

 新型コロナウイルスの対応については、厚生労働省が色々批判されています。しかし、そもそも、日本の行政がこんな脆弱な体制になってしまったのは、財政健全化のためと称して、歳出抑制やら行政改革やらが進められてきたからなのです。

 例えば、熱心な財政健全化論者である土居丈朗先生は、昨年十二月、日本の医療費を抑制するために、病床数を減らすべしと説いていました。
https://mobile.twitter.com/takero_doi/status/1205637996759810048

 

 もし、過去二十年間、日本の財政がMMTに基づいて運営されていたら、感染症対策のための体制も、もっと充実させることができていたでしょう。

 ついでに言えば、デフレにもならなかったはずです。

 というわけで、この新型コロナウイルスがもたらした危機を契機に、是非、経済や財政の正しい知識を身に付けていただきたいと切に願います。

 もうこれ以上「インフレが止まらなくなる」などという戯言に付き合っている余裕は、日本にはないのです。

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中野 剛志

なかの たけし

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)、『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』『全国民が読んだら歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』(KKベストセラーズ)。  

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