やまゆり園事件犯人の植松聖に見る合理性信仰を超えるには
この世界の意味不明な複雑性と多様性を受け入れるために、あえて馬鹿でいよう
相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人を殺害し、施設の職員2人を含むあわせて26人に重軽傷を負わせた植松聖被告の裁判で、横浜地方裁判所は検察の求刑どおり死刑を言い渡した。「犯人の動機は謎である」といわれるこの事件。その深層を藤森かよこ氏(福山市立大学名誉教授)が分析し、読み解く。(藤森氏は近著『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』がベストセラーに。鋭い人間分析で唸らせる、いま最も注目の文筆家である)するとそこには、私たちにとってあまりにも身近な欲求の有り様と相通ずる恐ろしい心の深層があった……。
■知的障害者45人殺傷事件犯人の動機は謎であるという嘘
神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、この施設の元職員の植松聖(さとし)が施設入所者45人を殺傷し、そのうち19名が死亡した事件について、横浜地方裁判所は2020年3月16日に判決を下した。
植松被告は、検察側の求刑どおりに死刑判決を受けた。彼は、控訴しない意志を明らかにしている。
この事件が起きたのは、2016年7月26日だった。午前2時に、植松は施設の入所者居住棟1階の窓ガラスをハンマーで割って侵入した。職員らを結束バンドで縛り、就寝している入所者を刃物で次から次へと刺した。そして、午前3時には地元の警察署に出頭した。
深夜の人々が寝静まっている時間帯にハンマーを使い侵入したり、結束バンドで職員を拘束したり、入所者ひとりひとりに話しかけて会話ができるかどうかで殺害対象を選別したり、そうしつつ45人を1時間以内に殺傷した手際のよい(?)犯行には、明らかに周到な計画性があった。
植松が大麻の乱用による大麻精神病であったので、犯行時には心神喪失であり、責任能力はなかったとする弁護側の主張は退けられたのは妥当だ。
この事件について多くの論者が語っているが、犯行の動機と背景については謎が残るとか不可解とか述べている。私は、これは嘘だと思う。動機については、わかり過ぎるほどわかるので、あえて動機は不可解とされたのだと思う。その動機は、私たちが多かれ少なかれ共有している合理性信仰である。