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学校再開は「定額働かせ放題」と「変形労働時間制」を見直すきっかけになるか

【第19回】学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■大切なのは建前ではなく教育現場である

 京都市教育委員会は3月19日の段階で、市立の全学校と幼稚園について4月の始業式からの再開を決めている。それにともなって、小中学校で学年内に終わらなかった授業については、4月以降の1学期に7時間授業の実施や夏休みを1日短縮して充てるなどの対応を決めている。文科省は、京都市と同じことの実施を全国の学校に対して求めているわけだ。
 補習などを行えば授業時間数が足りなくなるのだが、それについては「各設置者等の判断で、長期休暇期間を短縮したり土曜日に授業を行ったりすることは可能である」ともしている。それによって教員の負担は当然ながら増えるわけだが、「週休日である土曜日に授業を行う場合には、教職員の勤務日及び勤務時間について、各地方公共団体の条例等に則り、適切に振り替えを行うことが必要となる」としている。

 これは長期休暇期間の短縮を示唆する一方で、振り替えも指示していることになる。期間が短くなった長期休暇期間の、どこで振り替えていけばいいのだろうか。混乱を招くだけの指示としか思えない。
 しかも「惜しみなく」と萩生田文科相が言及したにも関わらず、有効な「支援」の方針は示されていない。教員の数を増やしたり、補習や宿題にともなう教員の負担増に対する手当などには触れられていない。

──学習の遅れは絶対に許さない。そうならないように補習や宿題で補え。そのために教員は、現状の労働力でもって対応すべきである。それによって生じる時間外労働の分は、どこかで解消しろ。どこで解消するかは現場で考えればいいだろう──

 文科省の通知は、上記のようなことを伝えている。働くだけ働いて、それによる時間外労働の分は「どこか」で辻褄を合わせればいいだろう、という変形労働時間制そのままの姿勢でしかないのだ。
 学校が再開すれば、教員の過重労働に拍車がかかる。しかし、それに対する正当な時間外労働手当(残業代)は支払われそうもない。「定額働かせ放題」が加速する状況が待っている。

 それに加えて、変形労働時間制の非現実性も明らかになっていくはずだ。一斉休校による学習の遅れを挽回するために補習や宿題を文科省は指示し、それによる教員の時間外労働については「振り替え」で対応しろと言っている。この「振り替え」が実現できるかどうかも疑問なのだが、それを前提とした「定額働かせ放題」による教員の肉体的・精神的疲労が増すことが心配される。もちろん、補習や宿題に追われる子どもたちの疲労も、大変なものになるだろう。

 それで健全な学校環境になるのかどうかは疑問と言うしかない。突然の一斉休校、そして新型コロナウイルス感染者の増加が懸念される状況下での学校再開…教員や生徒の負担増加への対応よりも学力を優先する文科省の姿勢は正しいと言えるのだろうか。

 学校再開は、変形時間労働制が問い直されるきっかけになるかもしれない。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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