タリバンが制圧後の「アフガンの実情」を現地出身の医師に聞く【レシャード・カレッド×中田考】第1回
2021年8月15日、タリバンがアフガニスタンを制圧。「タリバンの恐怖政治が復活する」「タリバンは女性の権利は認めない」「米国の協力者は粛清する」等、それ以降も西側メディアは「タリバン=悪」説のプロパガンダに終始し、国際社会との協調を阻んでいる。一方、アフガニスタンでは今、食糧不足によって多くの子どもたちの餓死が出始めていること、また医療設備や医薬品の不足で国民の生活はさらに危機に瀕している報道はあまりに数が少ない。米国はもちろん、国際社会は今、窮状に喘ぐアフガニスタンを放置し続けているのが実情だ。イスラーム学の第一人者である中田考氏が新刊『タリバン 復権の真実』(KKベストセラーズ)を上梓。タリバンによるアフガン制圧の真相からタリバンの組織や思想までが、初めて詳細に語られている。今回、アフガニスタンのカンダハールで医療と教育の支援をしているレシャード・カレッド医師に、中田考氏がインタビュー。タリバンのアフガン制圧後の知られざる実情と、日本人へ向けたメッセージを読者のみなさんにはぜひ聞いていただきたい。
◉レシャード・カレッド
1950年生まれ。京都大学医学部卒、医学博士。アフガニスタン王国(当時)カンダハール出身の日本国籍を持つアフガニスタン人医師。関西電力病院、天理よろづ相談所病院、市立島田市民病院における勤務医を経た後、1993年より自身の開業したレシャード医院(静岡県島田市)院長。2002年4月に任意団体カレーズの会(静岡県静岡市)を設立し、同年7月より故郷カンダハールでの医療支援を開始、2013年9月26日にはカレーズの会が特定非営利活動法人として静岡市より認証を受ける。著書に『知ってほしいアフガニスタン』、『戦争に巻きこまれた日々を忘れない』、『終わりなき戦争に抗う』、『最後の時を自分らしく』がある。
◉中田考(なかた・こう)
イスラーム法学者。1960年生まれ。イブン・ハルドゥーン大学(トルコ・イスタンブール)客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、『みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論』、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著に、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』がある。
■アフガニスタンの食糧問題
中田:前回お話を伺った9月21日から2週間ほど経ちましたが、カンダハールあるいはアフガニスタンの状況に変化はありますか?
レシャード:最近は食糧事情が厳しくなってきています。ひとつには食糧自体が無いという問題があり、食糧の高騰を引き起こしています。もうひとつ、お金が無いという問題もあります。給料が支払われていなかったり、商売が成り立っていないので、人々の手元に現金がない。そのため食糧を買いたくても買えない状況にあります。
先日、アフガニスタン西部のほうで100人位の子供たちが餓死してると報道されていました。これまでは、このような地方の情報が他の地域にはなかなか入ってこなかったのですが、最近少しずつそういう情報が入ってくるようになってきていています。それでアフガニスタン全体の食糧事情が厳しい状況にあることが分かってきました。
中田:お金が無くて食糧も買えないというお話ですから、外国からお金や食糧を入れていかないといけないと思います。その際にアフガニスタンはパキスタンやイランなどと国境を接しているわけですが、パキスタンやイランを通じてアメリカの制裁を回避して支援をすることは可能なのでしょうか?
レシャード:実際に今回インドからある程度食糧が提供されています。但しインドからの援助の問題として、インドからの支援物資はパキスタンを経由して運ばないといけないわけですが、パキスタンとインドが仲良くないため折り合いがつかないという問題もあります。このように近隣の国々からの支援もありますし、中国から食糧が提供される約束もあります。
なんにせよ、周辺の国々はそういった支援の意向をある程度示しているのですが、問題は「誰がどこまで運ぶか」「どのようにそれを配るか」ということなんです。
今回多くの子供たちが餓死していることが分かったゴールという地方は、ヘラートという地域からさらに山に入った、とても到達しにくい場所に位置しています。ウルーズガーン、バーミヤーン、ガズニー、ゴールといった、国境から離れてある程度山に囲われている地域のほうが、食糧が到達できず厳しい状況にあるのです。
また、国際社会が資金援助を行う際には、それをタリバンには渡さずに直接地方の食糧事情の改善に使おうとしていますが、問題は外国の人、特に国連の職員のような立場の人がアフガニスタンにほとんど残っていないことです。資金をどう使えばいいのか。どんな物を買って、どこに輸送して、誰がどう配るか? 外国の人が現地にいないことで、そこがなかなか見えてこない部分が一番大きな問題になっているように思います。
地方にしても都市部にしても「安全だ」ということは言われていますけれども、その地域に本当に安心して入れるかどうか保証がないものですから、国際社会が現地に入り込んで何か活動しようという動きがなかなか見えてきていません。
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◉中田考『タリバン 復権の真実』出版記念&アフガン人道支援チャリティ講演会
日時:2021年11月6日 (土) 18:00 - 19:30
場所:「隣町珈琲」 品川区中延3丁目8−7 サンハイツ中延 B1
◆なぜタリバンはアフガンを制圧できたか?
◆タリバンは本当に恐怖政治なのか?
◆女性の権利は認められないのか?
◆日本はタリバンといかに関わるべきか?
イスラーム学の第一人者にして、タリバンと親交が深い中田考先生が講演し解説します。
中田先生の講演後、文筆家の平川克美氏との貴重な対談も予定しております。
参加費:2,000円
※当日別売で新刊『タリバン 復権の真実』(990円)を発売(サイン会あり)
★内田樹氏、橋爪大三郎氏、高橋和夫氏も絶賛!推薦の書
『タリバン 復権の真実』
《内田樹氏 推薦》
「中田先生の論考は、現場にいた人しか書けない生々しいリアリティーと、千年単位で歴史を望見する智者の涼しい叡智を共に含んでいる。」
《橋爪大三郎氏 推薦》
「西側メディアに惑わされるな! 中田先生だけが伝える真実!!」
《高橋和夫氏 推薦》
「タリバンについて1冊だけ読むなら、この本だ!」
※イベントの売上げは全額、アフガニスタンの人道支援のチャリティとして、アフガニスタン支援団体「カレーズの会」に寄付いたします。
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