就職氷河期世代はブラック企業でパワハラで苦しみ、いま他責自責の念に駆られている【沼田和也】
『牧師、閉鎖病棟に入る。』著者・小さな教会の牧師の知恵 第13回
なぜ人を傷つけてはいけないのかがわからない少年。自傷行為がやめられない少年。いつも流し台の狭い縁に“止まっている”おじさん。50年以上入院しているおじさん。「うるさいから」と薬を投与されて眠る青年。泥のようなコーヒー。監視される中で浴びるシャワー。葛藤する看護師。向き合ってくれた主治医。「あなたはありのままでいいんですよ」と語ってきた牧師がありのまま生きられない人たちと過ごした閉鎖病棟での2ヶ月を綴った著書『牧師、閉鎖病棟に入る。』が話題の著者・沼田和也氏。沼田牧師がいる小さな教会にやってくる人たちはどんな悩みをもっているのだろう? 今回は3-40代就職氷河期世代がパワハラでも苦しみ、他責自責の念に駆られているというひとたちに対して沼田牧師が静かに語った。
現在30~40代の、長い就職氷河期やリーマンショックを体験してきた人たちが、バブル絶頂期を現役で生きた50代以上の人たち、あるいは高度経済成長期に若者文化を謳歌した団塊の世代の人たちを、しばしば目の敵にする。その趣旨としては、彼らが贅沢三昧を過ごし、時代のうまみを吸い尽くした、そのツケを我々ブラック企業社員/派遣労働者/ひきこもりが払わされている、というものが多い。そうした血を吐くような言葉を読んでいると、わたしは聖書に遺された、次の言葉を思い出す。
‘お前たちがイスラエルの地で、このことわざを繰り返し口にしているのはどういうことか。 「先祖が酸いぶどうを食べれば 子孫の歯が浮く」と。 ‘エゼキエル書 18:2 新共同訳(以下、翻訳は同じ)
子孫、すなわち自分たちの歯が浮いてしまったのは、先祖、すなわち父や祖父ら前世代が酸っぱいぶどうを食べたせいだ、という意味のことわざが引用されている。前世代までの人々がやらかした失態の尻ぬぐいを、自分たちが負わされていると。紀元前586年にユダ王国は新バビロニアに滅ぼされてしまい、おもだった人々は首都バビロンに捕虜として連れ去られた。捕虜たちは挫折感のなかで「自分たちがどんな悪いことをしたというのか。こんなことになったのは父や祖父たちの愚行のせいではないのか」と、前世代までの人々を憎んだことだろう。状況はまったく違うけれども、今の30代や40代の人々が苦しみのなかで団塊の世代やバブルを楽しんだ(かもしれない)世代に恨み言をつぶやく状況に、わたしはこの聖書箇所を重ね観る。
ところで、上で引用したのと同じエゼキエル書のなかには、こんな言葉も載っているのが興味深い。
‘人の子よ、イスラエルの家に言いなさい。お前たちはこう言っている。「我々の背きと過ちは我々の上にあり、我々はやせ衰える。どうして生きることができようか」と。 ‘エゼキエル書 33:10
こんどは他人のせいにするどころか、激しい自責と後悔の念に満ちている。上述のような歴史的状況に置かれた人々は、一方では自分たちの苦しみの原因を父祖たちの堕落に求め、それゆえ父祖たちを憎んだのだが、同時に、こんなことになってしまったのは自分たちが神に背き過ちを犯したからだ、だから自分たちはやせ衰えて死んでいくだけだという絶望にも陥っていた。これもまた、やはり30代や40代の人が、「自分なんてクズだ、こうなったのもけっきょくは自分のせい。自分になんの能力もなかったからこんなことになったのだ」と自嘲する姿と重なってくる。
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