国際社会や日本人はタリバン政権といかに対峙すべきか?【レシャード・カレッド×中田考】第3回
「タリバン復権の真実」と「今、アフガンで生きる民間人の実情」を知りたい。
■政治組織としての「タリバン」
レシャード:一方で、今の政権を担っている「タリバン」と、今説明した「学生」の意味での「タリバン」とでは大きな違いが出てきます。
現在のタリバンも、1995年から6年の間は学生としての「タリバン」そのものが集まってきていたんです。
当時のアフガニスタンの状況は恐ろしく、派閥に分かれて殺し合いがあったり、軍閥や部族のような人たちが、自分たちの利益のために一般市民を本当に迫害したりと、いろいろなことがありました。それに見かねた学生たちが「我々がなんとかしなきゃ」といって作った組織が、現在のタリバンの原形です。
しかし学生だけでは何もできないので、一般市民が彼らを「よくやったぞ」「よく集まったぞ」「よくその気持ちになったぞ」ということで応援したり、一般市民が一緒に組織化されていって、それがタリバンの運動になったんです。
私の本の中にも書きましたが、初期の学生たち(タリバン)は「想い」は持っていました。しかし政治の技術や知識、発想の部分では全く無知だったので、そこに入り込んだのが、いわゆる「アルカイダ」なんです。
結局、国際社会は初期のタリバンを指導する立場、あるいは支援する立場を一切放棄した。しかし彼らは誰かの助けを必要としていた。そこにアルカイダが「お前らに政治を教えてやる」「政府のやり方を教えてやる」と入り込んだのです。
本来ならそこで国際社会ができることがあった、というのが私の考えであり、想いです。
今のタリバンは、その時代のタリバンとは違います。彼らは「タリバン」(学生たち)の名前の下に集まってはいますが、政治的な理由でまとまっている人たちなのです。
これはあえて言わなければならないことですが、彼らは「宗教を守る、イスラム教を守る」という基本的なスタンスこそ変わっていませんが、皆が皆それだけの知識を持っているかというと、持っていない。無知な人が多く集まってしまっています。
ほとんどの一般のタリバンの人たちは、ただ想いで集まっているだけで、知識も持っていなければ情報も持っていない。政府がどういう方向に動いているかを知らない人たちです。
そういう人たちが、人を殺したり、ぶったり、鞭で打ったりと、いろいろなことをしてしまっているのは、全く無知なレベルの一般のタリバンまで教育が行き届いていないということだろうと思います。
ですから、1996年から2001年までの過ちを繰り返さないためには、彼らがとんでもない方向に行く前に国際社会がきちっと彼らを指導したり、支援したり、ある意味では「縛り付けてあげる」ことも大事になります。「縛り」というのは、ただ規則で縛るのではなくて、何かの報酬の対価として「縛り」がついてくるものです。それはお互いに必要なことですし、今の世界の状況、情勢の中で当たり前のことでもあります。
それによってタリバンも、方向性を決めてしっかり進むことができる。その方向というのは国際社会から認められた方向であって、それがアフガニスタンの一般市民を何らかの成功に導く方向であるというべきだろうと、私はそのような想いでおります。
■タリバンは見分けがつくのか?
中田:元々の意味の「タリバン」は、20年ぐらいはイスラムの勉強をしっかりする人間がターリブだったわけですよね。
カンダハールでも、今「タリバン」と呼ばれている人がいっぱいいると思うんですけども、それは今言ったようなそもそもの意味での「勉強した人」なのか、あるいは今の政府としてのタリバンの職員なのかどうか。その辺は一般の人でも見ただけでも分かるものでしょうか? 我々外の人間から見ると、ターバンとかを巻いていると「あいつがタリバンなんだ」というふうに思ってしまいますが。
レシャード:見てすぐに分かるといった話ではないのですが、例えば、カンダハールのことだけを具体例に挙げると、一般的に、現地に住んでいたり今まで宗教的な勉強をしたりする人というのは顔見知りの人たちがほとんどです。だから、本来の「学生」の意味でのタリバンが誰か、この人は何を学んでいるかということは、地元の人間には分かるわけです。
中田先生もご存じのように、モスクで働いている人や、そういう指導している人たち、あるいは「学生」としてのタリバンには、ほとんどの場合、毎日地域の人たちが集めて食事を持って行きます。だから顔見知りなんです。
中田:そうですね。
レシャード:お互いの生活が関係を持っている、一緒に暮らしているので、知らない人ではないのです。彼らはいろんな行事に参加します。お葬式や結婚式など、いろんな行事にムッラーだったり、ターリブがやって来ます。あるいは、ムッラーを呼ぶとターリブに必ず後ろに着いてきます。というのも、そのあとにご馳走が出るからです。
日常的に行われている行事の中に、彼らが浸透している。だからみんな知っているし、ムッラーとかターリブは子供たちの顔を知ってるから、子供がちょっといたずらをすると、道ばたでも捕まえて「おいお前、そんなことはやるんじゃないぞ」とか、いじめをすると「こら、それはやるべきことじゃないぞ」と叱る。こういうことが日常的にできている社会のシステムなんです。
それとは違い、政治組織としての「タリバン」というのは、ターバンをしているだけではなく武器を持っているとか、あるいは支配的な立場でいろんなことを言ったりする人々です。
普段から接している学生としてのタリバンではなくて、いわゆる政治的な組織としてのタリバンとして、そこは皆区別していると思います。区別しないと危険ですから、今度は逆に生活の上では「何か間違ったことでもしたら大変だ」と警戒しているんじゃないかと思います。
中田:そうですね。特にカンダハールのような地方なら日常的に付き合っているから分かりやすいのですれけど、カブールのように広いと多分分からないでしょうから、それが問題になっているんでしょう。それはどうしても出てくる問題ですよね。
レシャード:そうですね。
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日時:2021年11月6日 (土) 18:00 - 19:30
場所:「隣町珈琲」 品川区中延3丁目8−7 サンハイツ中延 B1
◆なぜタリバンはアフガンを制圧できたか?
◆タリバンは本当に恐怖政治なのか?
◆女性の権利は認められないのか?
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イスラーム学の第一人者にして、タリバンと親交が深い中田考先生が講演し解説します。
中田先生の講演後、文筆家の平川克美氏との貴重な対談も予定しております。
参加費:2,000円
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『タリバン 復権の真実』
《内田樹氏 推薦》
「中田先生の論考は、現場にいた人しか書けない生々しいリアリティーと、千年単位で歴史を望見する智者の涼しい叡智を共に含んでいる。」
《橋爪大三郎氏 推薦》
「西側メディアに惑わされるな! 中田先生だけが伝える真実!!」
《高橋和夫氏 推薦》
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