国際テロ組織と指定されている「タリバン」という名前の由来と誤解【中田考】凱風館講演(前編)
「凱風館」での中田考新刊記念&アフガン人道支援チャリティ講演(前編)
■ヨーロッパに勝った国、アフガニスタン
さて対外的なことに目を向けますと、まず1838年から44年の第一次アフガン戦争でイギリスに勝利します。これは国際関係論で「グレートゲーム」と言われる、ロシア―イギリス間のユーラシアでの争いの一環です。
この当時、既にインドはイギリス領でしたが、そのイギリスにアフガニスタンは勝ってしまったということです。これはすごく重要なことです。
現代の世界情勢は、19世紀のヨーロッパがいかに強かったかを考えないと理解できません。
我々は現在、「人類皆平等」だと一応口先では言ってますし、そういうふうに信じてもいるでしょう。ところがつい最近までアジア人・アフリカ人はヨーロッパ人から人間扱いされていなかった。少なくとも一人前の人間、文明人とは見做されていませんでした。ですからもちろん人権もなかったわけです。
現在は、建前上は「人権はある、皆平等だ」と言っていますが、実際のところはそうではありませんし、21世紀になって本音が出てきはじめています。9.11以後、「イスラーム教徒来るな」という声が出てきましたし、最近だとコロナ禍のおかげで「アジア人来るな」とアジア人蔑視の本音が出てきています。
人類は皆平等だと言ってますけれども、実際に制度としても自由な移民は認めないわけです。これは日本も同様ですよね。とは言え現在は一応、表立ってそういうこと言う人はあまりいないわけですけれども、昔は表立ってそう言われていたわけです。
19世紀、アジア・アフリカのほとんどの国はヨーロッパの植民地でした。それでも植民地にできなかったのは、まずカリフがいた頃のオスマン朝トルコです。それから中国もです。大清帝国は半植民地化されましたけれど、完全な植民地にはならなかった。
それに対してインドは、あれだけ大きい場所がイギリスの植民地になってしまいました。
当時の英領インドは、要するにイギリスですが、それとロシアに囲まれた場所こそが、アフガニスタンです。そこでイギリスが、ロシアがインドを侵してくるのが怖いからという理由でアフガニスタンを占領したわけですけれども、それに対してアフガニスタンは、ロシアも援助はしましたが、最終的には自力でイギリスを打ち破ったわけです。これが第一次アフガン戦争です。
これは実にすごいことで、世界史的に見てもそんな国はアフガニスタンしかないほどのことです。
トルコと中国は、とても大きかったので完全に征服して植民地にすることはできませんでした。日本も一応植民地になりませんでした。タイ、エチオピアも同様ですが、世界中でヨーロッパの植民地にならなかった国・土地はこれくらいのものです。
しかし日本にしてもエチオピアにしてもタイにしても、政治的にうまくたちまわって独立を維持したのであって、戦争で勝って独立を自力で獲得した国は一つもありません。ヨーロッパに占領されて、これを武力で撃退した国は、世界中にアフガニスタンしかないんです。しかもその相手が「太陽の沈まない帝国」と言われる大英帝国だったわけですから、その意味でアフガニスタンはすごい国なんです。ですからアフガニスタンは「帝国の墓場」とも言われています。
19世紀がヨーロッパの最盛期であり、この時のヨーロッパはものすごく強かった。それが20世紀になって、第一次世界大戦と第二次世界大戦で自滅しました。ヨーロッパ自体が戦場になって荒廃したからです。一番の被害を受けたのはソ連でした。
ヨーロッパの自壊で漁夫の利を得たのがアメリカで、20世紀は基本的にはアメリカの世紀になりました。
そして21世紀になり、今回のアフガニスタンからのアメリカ軍の撤退は、アメリカの時代の終焉を象徴するような出来事だと言えるでしょう。
(後編に続く)
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◉中田考『タリバン 復権の真実』出版記念&アフガン人道支援チャリティ講演会
日時:2021年11月6日 (土) 18:00 - 19:30
場所:「隣町珈琲」 品川区中延3丁目8−7 サンハイツ中延 B1
◆なぜタリバンはアフガンを制圧できたか?
◆タリバンは本当に恐怖政治なのか?
◆女性の権利は認められないのか?
◆日本はタリバンといかに関わるべきか?
イスラーム学の第一人者にして、タリバンと親交が深い中田考先生が講演し解説します。
中田先生の講演後、文筆家の平川克美氏との貴重な対談も予定しております。
参加費:2,000円
※当日別売で新刊『タリバン 復権の真実』(990円)を発売(サイン会あり)
★内田樹氏、橋爪大三郎氏、高橋和夫氏も絶賛!推薦の書
『タリバン 復権の真実』
《内田樹氏 推薦》
「中田先生の論考は、現場にいた人しか書けない生々しいリアリティーと、千年単位で歴史を望見する智者の涼しい叡智を共に含んでいる。」
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