エラー、ヒット、ヒット、ノーアウト満塁
お笑い芸人・杉浦双亮の挑戦記<5>
トライアウト初登板は7回からだった。いきなりエラーでランナーを出し……<全4ページ>
かけよったキャッチャーにびっくりされる
最初に感じていた「受け入れられていないのではないか」という不安はもはやどこかにいってしまい、「体力が一週間もつのだろうか……」というものに変わっていた。はっきり言って、自分が芸人だとか、そんなことは一切忘れていた。
そんな感じで怒涛の初日が終わった。
トライアウトのメンバーでバスに乗り、ホテルに戻った。ホテルのレストランで偶然、トライアウトを受けている数人に会い、一緒に食事をした。まだ打ち解けるほどの話はできなかったけれど、若い彼らはいろいろなものを背負ってこの場所に来ていた。そんな存在はとても刺激になった。この話はまた改めてちゃんと書きたい。
そうして、冒頭に戻る。
ピッチャーの登板は志願制。初日、僕は1回投げることを希望し、3番手で投げることが決まっていた。回ってきた初登板。
39歳のおじさんは、いきなり、エラー、ヒット、ヒットでノーアウト満塁のピンチを迎えたわけだ。
僕がスパイクの紐を結びなおそうとタイムを取ると、キャッチャーの中島くん――彼は現役の選手で徳島インディゴソックスでプレーしている――がマウンドまで駆け寄ってくれた。中島くんがなにかを言おうとしたそのとき、僕は言った。
「いやいや、いきなり試練が来たねー」
めちゃくちゃ笑っていたらしい。後日、中島くんに、
「あのとき、いきなり笑って話し掛けてきたからめちゃくちゃビックリしましたよ」
と言われた。
ピンチを迎えているけど、はっきり言って楽しくて仕方がなかった。こんなことを言ったら、高校時代だったらめちゃくちゃ怒られただろうな……(笑)。
相変わらずアップはきつかったけれど、試合に入ってからというもの「野球っていいなあ……」という思いが込み上げてきて、抑えられなくなっていた。トライアウト後に、「チームの雰囲気をよくしてくれたことも手を上げたひとつの理由」と愛媛球団の人に言ってもらったのだけど、これは意図してやっていたわけではなく、本当にただただ野球が楽しかったからだ。
目の前で一流の選手たちがプレーしている。
いいプレーがでれば大きな声で「ナイスプレー!」と言っていたし、チームが勝てるようにベンチで声を張り上げたのも感情にしたがっただけ。
だから初登板だからってほとんど緊張もしなかったし、ただ楽しみでしかなかった。