「サウジアラビア人と結婚した妙齢の美女の悩みに答える」の巻【中田考のレンタルおじさん】
中田考「レンタルおじさん、始めました」連載第4回
■アラビア語学習に限らず「中田式語学学習のススメ」
依頼者:前夫との間の中学生の息子がアラビア語を勉強していて初級者向けのテキストを終えたところなんですが、勉強の仕方などアドバイスがあればお聞きしたいです。
中田:まず、なんのためにアラビア語を学ぶのか、です。アラブ人と会話をしたいと思っているなら、はっきり言ってやめた方がよいです。アラブ人と話しても不愉快な思いをするだけですから。
依頼者:先生、そんなに嫌な思いをしたんですか。
中田:エジプトでは毎日毎日、こいつらはなんでここまで他人を不愉快な気分にさせられるのか、と今から思い出しても脳の血管が切れそうな思いをして暮らしていましたね。
それにだいいち、エジプトではちゃんとしたアラビア語は全く誰もしゃべっていなくて、似ても似つかないアンメーヤという口語で話さないといけないので、アラビア語を勉強してもまったく役に立ちません。サウジアラビアやシリアの口語はエジプトよりはましですけれど五十歩百歩です。
依頼者:では何のために勉強するのでしょう。
中田:アラビア語を学ぶ目的は、イスラーム学の本を読むため以外にはありません。ドラマを観るなら、韓ドラを見た方がいいし、小説を読むなら日本語のラノベでも読んだ方がずっと面白いですから。
依頼者:イスラーム学の本は難しそうですけど、どうやって勉強すればいいんですか。
中田:イスラーム学の本に限りませんが、語学は最低限の文法事項を学んだら、家庭教師をつけて自分の読みたいものを読んでいくのが一番です。細かい文法や例外規則はそもそもあまり出てきませんから、最初から習う必要はありませんし、習っても使わないので忘れてしまって身に付きません。それにどんな言語でもそうですが、必要な語彙は分野によって違うので、要らない単語を覚えても仕方ありません。古典イスラーム学を学ぶのには、家庭電化製品、公共交通機関、経済制度、行政機構、スポーツ、アートなどの名前を覚えても無駄です。必要な言葉は何度も何度も出てきますから、忘れてもそのたびに辞書をひいて調べればいつかは覚えます。文法細則、例外規則も出てきた時に先生に聞けばよいのです。
依頼者:文法や単語も忘れてちゃってもいいんですか。
中田:サヴァン症候群のような特殊な場合を除いて、人は覚えたことも忘れるものです。普通の人間が語学を上達する秘訣はただ一つ。忘れる以上に覚えることです。ザルで水を汲むようなものですが、ザルについた水滴でもたくさん集めれば、コップに一杯ぐらいは溜まって乾いた喉を潤すぐらいはできるものです。そして忘れる以上に覚えるためには、できるだけ覚えるものの数を減らすことが大切です。だからどんなに難しくても、簡単なものを選んで興味のない簡単な読み物から始めるような寄り道をせず、たとえ難しくても最初から自分の知りたい分野のものをいきなり読んでみるのが結局のところ本が読めるようになる一番の近道なのです。
構成:ヒサマタツヤ