Scene.10 毎日がエキサイティング!
高円寺文庫センター物語⑩
「殿! 立て続けにサイン会って盛り上がったね」
「うん、ママさん。っていうか、スペシャル豚汁が旨いよ」
「りえちゃんも内山さんも食べたからね。殿はたっぷり食べて」
はい! 毎度毎度お向かいのニューバーグは、ありがたいランチタイム。
「殿! いつもニコニコな出版社さんが、お店に入って行ったわよ」
「お! 石川ちゃんだ。行くから! ママさん、ごちそうさまぁ!」
「イェイ♪石川ちゃん! どもっす!」
「わは、店長! 後ろからっすか!
っていうか、先日は結婚のお祝い呑み会をありがとうございました。」
「新宿のラインゴールドでのね。楽しかったねぇ~!」
「店長のお祝いが野球盤って、ウケましたよ」
「最初のベイベーにさぁ~男女関係なく、親子で野球盤を楽しんで貰えればって」
「店長、仕事ばい。石川さん、『映画秘宝』ね?!」
「そっす、内山さん。お蔭で好調なムックになってんすよ」
「だってさ! 『異人たちのハリウッド』『地獄のハリウッド』も、読み応えあったもん。あの視点が映画好きには、たまらなく痛快だよ」
「石川さん。編集長が変わっても二代目も頑張っとるけんが、このムックは長続きすると思っとるよ」
「だよね、だよね!」
「店長! まだ休憩時間あるけん、本読みに行かんと?!」
「あ、あぁ~店長を邪魔にしてえいが?」
毎朝、高円寺駅に降り立つと、臨戦態勢モードにテンションを上げつつ店に向かう。
「あれ、なんでまだ開店前なのに行列しているんだ?
今日はイベントもないはずなのに・・・・」
「お客さん、なんで並んでいるの?」
「あ! 店長さん。今日は菅野美穂の写真集が発売される日でしょう?!」
「え! 貼り紙を見てなかった?
入荷は2冊の予定で、その整理券配布は終わっているんだけど」
それを聞くや否や、雲の子を散らすとはこのことか! ほかの本屋に向かって走り出すお客さんたち!
残ったのは、くじ引きをするための整理券を持ったお客さんたちだった。
『菅野美穂写真集「NUDITY」』発売の情報が流れてから、店頭と電話での問い合わせが凄かった!
さすがにデビュー3・4年で人気女優となり、この2年前には歌手デビューもしたトップアイドルが突然のヘアヌード写真集!
しまったぁ、認識がまだ甘かったぁ・・・・
発売を知ってまずは取次店から何冊が送られるのかと、日販の担当者に問い合わせれば2冊しか来ない!
予約者注文票を日販に送ってもこれじゃ大変と、対策会議しておいてよかった。
予約のお客さんには「初版の入荷は無理だと思うので、重版分からでよければ」と、断っての予約受付で凌ぐことにした。
日販の担当者には、これだけの予約者がいるからと懇願しつつ神保町の神田村へ仕入に走り回る。
定価3,800円は、売上を考えたらデカい! それに高円寺のお兄ちゃんたちに、菅野美穂を提供したいじゃない。
そしたら、京子っぺ談「血マナコなオタクにいちゃんを見ていると、いじましくなるわ。一生、女を抱けないのを写真集で我慢するんでしょう」
さらに、京子っぺの後日談。くじ引きに当たったお客さんに見せて貰ったそうで「完璧、エロ本っすよ」って、店長は見てないぞ!